【山分け】(2016年3月号)


「あの日」から早くも5年が経つというのに、復興はまだ道半ばと言わざるを得ないだろう。復興特別増税で集めた巨額の税金は、いったいどこに投下されているのか▼東日本大震災で被災した高速道路の復旧工事をめぐる談合事件も明らかになった。原資は当然、税金である。火事場泥棒とは、こうした業者のことをいうのだろう▼「密談は客へ火箸を一本やり」。談合が盛んだった江戸時代の川柳にある。証拠が残らないように、入札の数字は火箸で灰の上に書いてやりとりした。今回の談合事件では業者が事前に「談合はしません」という誓約書を提出していたという。こちらの一筆は反故にして、一本箸の談合で取り決めた分け前のほうを優先したわけだ▼大森貝塚を発見・発掘したことで知られるアメリカの動物学者エドワード・S・モースが晩年にまとめた回想録の中に、東京の夜店を散策したときのエピソードが収められている。自分の屋敷で働く料理人の子ら、日本人の少女2人を連れて歩いていたモースは、彼女らに10銭ずつの小遣いを渡す。2人は小間物を売る店へ寄ったあと、座って三味線を弾く貧しそうな女性に近づき、ザルの中にそっと1銭ずつ入れたという▼明治の少女と、現代の談合業者――。助け合いの気持ちを込めて納めた税金が、談合で山分けされていたのでは、復興など進むはずもあるまい。