【コトバのチカラ】 (2019年11月号)


母親のオフィスを訪れた娘が残していったメモにはこう書かれていた。「母ちゃん大好き、愛してる。世界をたのむ」。日本人女性初の国連事務次長(軍縮担当上級代表)として活躍する中満泉さんの著書『危機の現場に立つ』(講談社刊)にあるエピソードだ▼中満さんが子育てで大切にしているのは「大好き」と言葉で伝えること。その思いは子どもに伝わり、必ず伝え返してくれる。それが、かあちゃんの原動力になっている▼『フォーチュン』誌が発表する「世界の最も偉大なリーダー50人」(2018年)にも選出された中満さん。彼女が現場でリーダーシップを発揮する際にも、「言葉」が重要な役割を果たす▼国連職員は彼女の言葉に、ときには奮い立ち、ときには慰められる。紛争当事者は冷静さを取り戻し、難民は絶望の淵からかすかな希望を見出す。言葉にはそれだけの力がある▼しかし、「言葉は時に人を殺す」こともある。だからこそ、言葉の無力さを感じることもしばしばだという。それでも彼女は言葉を武器に仕事に取り組む。なんといっても娘に頼まれた「世界」のことだ。途中で諦めるわけにはいかない▼社長さんの「言葉」も大きな力を持っている。顧客や社員に対する感謝の思いは、きちんと言葉にするべきだ。そして安心して「会社を頼む」と伝えられる人材を育てていきたい。