【あるはず】(2014年8月号)


オリオン座はこの季節になると早い時間帯で夜空から居なくなってしまうが、その左上方に輝く一等星だけは夏場でもひときわ目立つ。天界のオリオンにとって「右肩」に位置するこの星はベテルギウス。地球から642光年も離れた虚空に「あるはず」の赤色超巨星だ▼ベテルギウスは晩年期を迎えた〝老星〟だという。地球には、その老星が発した642年前の光が届いているのだから、ひょっとしたらすでに超新星爆発を起こしていて、その一生を終えているのかもしれない。つまり「あるはず」の星なのだ▼さて、「租税法律主義」は日本に限らず、民主主義国家の租税に関する共通した基本原理となっている。憲法でも84条で明確にしているところだ▼集団的自衛権行使をめぐって、政府は「憲法解釈の変更を閣議決定」した。大量破壊兵器などなかったイラク戦争で、米英の大儀なき戦争を支持した政府が、それについて何の検証もしないまま強行した閣議決定▼これが許されるのならば、増税も減税も閣議決定だけで思いのままだ。憲法も租税法律主義も、もはや「あるはず」としか言えまい▼詩聖ホメロスが「丈高き猟夫」と称えた巨人オリオンは、「我に敵なし」と高言したために、怒った神々が差し向けた大サソリに刺されて落命した▼夏の夜空に、さそり座の一等星、アンタレスが輝くのを待つ宵の口だ。