社団法人の相続税対策は難しい?

安易な設立は事故のもと


 一般社団法人(一社)を使った相続税対策が、数年前から話題として取り上げられるようになった。公益法人改革によって設立が容易になったことや、株式会社に比べて税制面で有利なことがあるなどの理由によるとされる。一社の最大の特徴は、株式会社のような持分がなく、所有財産が「誰のものでもない」という点にある。

 

 個人が死亡すればその財産には相続税が課されるが、一社が所有する財産には相続税がかからない。つまり個人の不動産などを一社に移すことによって、相続税の負担をなくして次世代に引き継げる。また会社が倒産しても財産を一社に移しておけば差し押さえの対象ともならないため、保全対策としても活用できる。これが一社を使った相続税対策の目的だ。

 

 そこだけを聞くと、一社を使えばバラ色の未来が実現できるようにも思えるが、現実はそう甘くはない。個人から一社に財産を渡す際に有償で売却すると、その財産価値は時価で算定され、取得価額との差に譲渡所得税が課される。取得時より時価が下がっていれば税負担は免れるが、親から相続した土地などは昔の低い価額が引き継がれているため、結果として多額の税金が発生してしまうことも多い。

 

 それならばタダで渡そうと、贈与を考えたとする。しかしその場合でも財産を時価で譲渡したとみなされ、譲渡所得税がかかる。また時価より低い価額で売却すると、今度は買った側の一社に受贈益が発生し、法人税が課されてしまう。相続税対策のために一社へ財産を渡したはずが、他の税金によって負担を強いられることになるのでは本末転倒だろう。

 

 さらに税金が多くかからないようにうまく一社に譲渡できたとしても、一社側からすれば財産を買うための資金が必要となる。あれば問題ないが、相続税対策のためだけに設立したばかりの一社には、十分な資金がないのがほとんどだ。すると銀行や経営者個人から借りることになるが、銀行から融資を受けるとなれば経営者の個人保証が必要となる可能性がある。経営者個人から借りれば、譲渡によって財産を減らせても、その分貸付金という別の財産が増えるだけとなり、そもそも相続税対策の意味がない。

 

 一社を使った相続税対策は、うまくやれば税負担を減らし、不動産や自社株といった財産を次世代に引き継げる有効な手法だ。しかしハードルは決して低くなく、持分がないことに起因する第三者による乗っ取りリスクなど、税金面以外で気を付けなければならない点も多い。もし実行するのであれば、税理士などの専門家と検討を重ねて、慎重に計画を練るようにしたい。(2018/12/18)