生命保険も差し押さえの対象に

ハードル高い介入権


 期限内に税金を納付できないと、財産を国税当局に差し押さえられてしまう。現金だけでは足りない場合には、現金化しやすい不動産や自動車、貴金属などから優先して差し押さえられる傾向にあるようだ。

 

 生命保険を差し押さえ対象の財産として考えた場合、すでに何らかの保険事故が発生して支払いを待っている段階の契約と、まだ保険事故が発生していない契約とでは扱いが大きく違う。前者であれば、保険金の請求権は受取人固有の財産であるとして扱われ、まだ保険事故が発生していない生命保険については、解約する権利や解約返戻金を受け取る権利がまだ契約者にあるとみなされる。

 

 この違いが、差し押さえられる人にとってどのような違いを生むのか。例えば会社が消費税を滞納してしまったケースで、会社が契約者として保険に加入していても、すでに支払いを待っている状態であれば、受取人は社長個人なので差し押さえの対象とはならない。なぜなら税金を滞納したのは会社であって、社長個人ではないからだ。

 

 一方、社長が加入して保険料を支払ってきた保険であっても、会社が受取人となっているなら差し押さえられる可能性がある。まだ保険事故が発生していない契約であれば、滞納した会社が加入した保険であるなら、受取人が社長個人であっても差し押さえの対象となる。

 

 老齢や既病歴などによって新たに別の保険に加入できないケースなど個々の事情に配慮して差し押さえが認められない例外はあるものの、原則として加入中の生命保険は差し押さえ対象になると考えていいだろう。保険金の受取人からすれば、自分には何の非がなくても、将来的にもらえるはずの保険金が国税当局に差し押さえられてしまうのだからたまったものではない。

 

 そのため保険法では、こうした状況に陥ったとき、債権者である国税当局に1カ月待ってもらい、その間に解約返戻金に相当する額を納めることで、保険契約を存続させる「介入権」を受取人に認めている。保険商品によっては解約時期によって返戻金の額が大きく変わることもあるため、介入権を行使して契約を維持することも一つの選択肢だ。だが、ある程度まとまった資金を用意しなければならないため、利用するためのハードルはかなり高いと言わざるを得ない。

 

 なお国税当局の目的は滞納分をなるべく早く徴収することなので、差し押さえた保険はすぐ解約されて返戻金にかたちを変える。そのため、返戻金のない掛け捨て保険が差し押さえの対象となることはほぼない。(2019/10/18)