消費税は「損税」?「益税」?

医療業界と輸出業界で明暗


 消費税の課税事業者は、仕入時には消費税分を含めて支払い、売上時には消費税も受け取る。年間を通して受け取った額のほうが多ければ差額分を納税し、逆に支払った額が多ければ還付を受けられる。これが消費税の仕組みだ。

 

 しかし商取引のなかには、政策上の観点などから消費税のかからない取引として定められているものがあり、事業によっては仕入時に消費税を支払っているにもかかわらず売上時には受け取ることができず、しかも還付も受けられないことがある。一方的に損をこうむるわけで、こうした税制のひずみは「損税」と呼ばれる。

 

 損税の代表的なものには、医療業界の診療報酬が挙げられる。病院にある医療機械や注射器のような消耗品の仕入費用にはすべて消費税が上乗せされている。一方で、診療時に受け取る診療報酬には消費税がかからない。小売業などであれば商品の値上げという形で負担を消費者に転嫁できるが、診療報酬は国が定める公定価格のため勝手に変えることはできない。

 

 2年に1度行われる診療報酬の改定では、消費税分を見込んだ増額がなされているものの、日本病院団体協議会の調査によれば、改定があっても消費税分を補てんできない病院が全体の半数近くに上るという。最新の医療機械導入にコストのかかる大病院ほど状況は厳しいようだ。

 

 また賃貸アパート経営者も不利益を被る。事務所など事業用の賃料には消費税がかかるが、住居用の家賃については、人間が生きていくために最低限必要な住居賃料に消費税をかけるのは好ましくないという政策上の理由から非課税取引となっている。消費税分を家賃に転嫁すればよい話ではあるものの、家賃の値上げは入居者離れを加速させる恐れもあって簡単にできないのが実情だ。リフォーム代や修繕費には当然ながら消費税がかかるため、10%に増税されれば維持コストがかさむことになり、アパート経営は今後さらに難しくなっていきそうだ。

 

 一方、消費税の仕組みによって得をしていると言われる企業も存在する。消費税は外国への輸出取引にはかからない。しかし、かからないとは言っても診療報酬や賃料のような「非課税取引」ではなく、「課税取引だが税率ゼロ」として扱われる。つまり、輸出業者は課税売上割合による消費税の還付を受けられる。

 

 これが「輸出戻し税」と言われるもので、戻し税として還付された分の税額を大企業が下請けにきちんと払っていればよいが、下請けへの買い叩きが一向になくならないことからも分かるように実際には税負担を丸々下請けがかぶっているケースがほとんどだ。消費税が輸出大企業にとっての「益税」になっているという指摘が絶えないゆえんだ。こうした損税と益税のすべてが、今年10月の増税によって、さらに深刻化することになる。(2019/05/27)