実地調査、机上調査、強制調査

重さがまるで違う税務調査


 2015年の国税通則法改正によって事前通知制度が導入されて以降、実地調査件数は下降傾向にあったが、昨年あたりからはほぼ横ばいで推移し落ち着きを見せている。1987年の映画『マルサの女』の影響か、税務調査というと「マルサが来る」と思っている人が意外と多いのだが、一般に「税務調査」といえば、税務署や国税局が行う任意調査を指す。

 

 任意とはいえ国税職員には「質問検査権」があり、納税者は質問を拒むことや黙秘することは認められていないため、実質は「間接強制調査」となっている。なお、正当な理由のない調査拒否は1年以下の懲役または50万円以下の罰金を受けることになっている。

 

 ここでいう「税務調査」は、調査官が現地を訪れる「実地調査」を指すことが多く、現実には「ここがアヤシイぞ」「おっとこの会社もクサいな」と、署内で審査する「机上調査」と呼ばれるものもある。「準備調査」ともいわれ、実地調査のための調査で、所得税や法人税であれば比較的すぐに実地調査を行うかどうかが判断されるが、相続税であれば申告から数年後に実施に移されることもあるので納税者サイドからすれば油断はできない。

 

 そして、国税通則法ではなく国税犯則取締法(国犯法)に基づいて強制的に行われる調査が国税局査察官(マルサ)による強制調査だ。脱税が多額で悪質と判断された容疑者の事業所や自宅が調べられる調査で、事前通告なしにやってくる。非常に強い権限を与えられているうえに裁判所の令状まで持ち資料押収も可能。もちろん納税者に拒否権はない。

 

 犯則調査では黙秘権が保障されているものの、査察官が納税者に告知する必要はない(マルサは納税者ではなく嫌疑者という)。強制調査の実施件数は年間200件前後。つまりウイークデーの毎日どこかでマルサの調査が行われていることになる。

 

 なお、17年度の税制改正で国犯法は国税通則法に編入された。18年4月から施行されているが、現在のところ目立った変化は見られない。今後、一般法と特別法の合体がどのような化学反応を起こすのかは未定だが、納税者の権利義務にも大きく関係することなので目が離せない。(2019/05/08)