駆け込み贈与は「持ち戻し」される

孫贈与は検討の余地あり


 長男に全財産を引き継がせたいが、他の兄弟から最低限の取り分である「遺留分」を請求されたら目的を果たせなくなってしまうので、生前に全財産を贈与して遺産分割そのものを行わせないようにする――。

 

 こんな方法を思いついたとしても、実現は不可能だ。民法では、法定相続人への生前贈与は、特定の人間が受けた利益として、遺産分割協議の際に「持ち戻し」することを定めている。つまり贈与した分もいったん相続財産に含めた上で、贈与を受けた人はすでに取り分をもらっていると判定するわけだ。

 

 昨年7月に成立した改正民法では「死亡前10年以内の贈与」を対象としている。ただし生前贈与が相続人以外、つまり第三者や法定相続人に当たらない親類に対するものだった場合は、また話が変わってくる。相続人以外への贈与についても遺産分割時の持ち戻しのルールはあるものの、対象となるのは「死亡前1年以内」の贈与のみ。法定相続分に絡まない人への贈与は相続人の間の公平を乱すわけではないため、大幅に短い期間が設定されているようだ。

 

 そのため、もし短い期間で生前贈与を行い相続財産を減らしたいなら、相続人には当たらない「孫」への贈与も一考に値するだろう。ただし、贈与した側とされる側の両方が遺留分の権利を侵害すると知って行った贈与だと認められると、持ち戻しの対象となる。その判断は微妙だが、例えば「相続人に財産をびた一文渡したくない」という理由で結託して行われた贈与は持ち戻される可能性が高い。

 

 ちなみに制度としては、遺言などで「この贈与については持ち戻しの対象としない」という持ち戻し免除の意思表示を行うこともできる。この意思表示を相続人らが受け入れれば、生前贈与分を除いた上で遺産分割が行われるが、一人でも納得のいかない相続人が遺留分請求を申し立てると、持ち戻し免除の意思表示は反映されず、やはり生前贈与分も含めた上で遺留分の算定が行われることになる。遺産トラブルを防止するという上では、あまり意味がないかもしれない。(2020/08/17)