財産債務調書で資産家を丸裸に

富裕層の監視強化


 富裕層の資産に対する国税当局の監視の目が急速に強まりつつある。例えば2015年にスタートした「国外転出時課税」制度は、1億円以上の金融資産を対象に、海外に持ち出す際に現金化されていない含み益にも課税するもの。税率の低い国で株などを売り払い、税負担を抑えた上で帰国することを予防するのが目的だ。

 

 国税当局は海外への資産持ち出しを問題視していて、国外に一定以上の金額を送る場合には「国外送金等調書」の提出を求め、海外に資産のある人に対しては「国外財産調書」の提出を義務付けている。

 

 もっとも日本に住んでいるだけでも、富裕層は提出を義務付けられている書類がある。それが15年度税制改正で導入された「財産債務調書」で、これはそれまでにあった「財産債務明細書」に代わるものだ。

 

 前身となる「明細書」は、年間の所得が2千万円超の人を対象として、10万円以上の財産や債務の細目や価額などを目録にして確定申告書に添付させるものだった。だが誤記載や未提出に対しての罰則規定などがないこともあり、対象となっていても「提出したことがない」という人が多かった。

 

 そこでリニューアルした「調書」では、調書を提出したひとに過少申告があった場合には過少申告加算税を5%軽減し、逆に提出していなかった場合や記載されていなかった場合には5%加算するという特例措置が盛り込まれた。「アメとムチ」で提出率をアップさせようというのが狙いだ。

 

 また記載事項についても、より詳細な内容が求められるようになった。これまでは「財産の種類、数量および金額」を記載すればよかったが、調書では「財産の所在、有価証券の銘柄」などの記載を求めている。より具体的に、国が資産状況を把握するようになるわけだ。

 

 一方、提出義務者の範囲については、それまで「所得2千万円以上」を対象としていたものを、「所得2千万円以上かつ、財産の価額が3億円以上か金融資産の価額が1億円以上」として対象者を絞り込んだ。

 

 すでにこの「調書」も導入から数年を経ている。国税当局の手元には、ある程度の資産家の情報が蓄積されているという。こうした調書を手に、国税当局は資産家への税務調査を進めているわけだ。(2019/09/02)