相続財産のほとんどを自宅の土地・建物が占めているため、その自宅を長男が引き継いでしまうと弟たちとの間に不公平さが生じてしまう――。そうした状況で活用できるのが「代償分割」と呼ばれる方法だ。
自宅を長男が引き継ぐ代わりに、長男が自分の財産から同価値程度の金銭などを弟に渡すことで、不公平とならないようにする。自社株を後継者に集中させる場合にも使われるため、事業承継でよくあるアドバイスのひとつとして、「代償分割で渡す金に困らないよう、後継者固有の財産となる生命保険に加入しておけ」というものがある。
代償分割では、金銭を渡すのが一般的だが、現金でなくてもいい。他の相続人が納得できる財産であれば、株式でも不動産でも問題ない。ただし注意したいのは、代償分割で受け渡しする財産が現金以外だと、新たな税負担が生じるリスクがある点だ。
税法では、現金以外の資産を代償分割に利用すると、渡した時点で「時価で売却したもの」として扱う規定がある。つまり、代償分割で渡す資産の取得価額を時価から差し引いて利益が残った場合には、代償分割をした長男に譲渡所得税などが課されることとなる。実際には手元に利益が残らなくても、所得税がかかってしまうわけだ。
さらに代償財産が不動産であれば、代償分割で受け取った側にも、不動産取得税が課されてしまう。税法には相続で引き継いだ財産については同税を課さないという特例があるが、代償分割でのやりとりにはこの特例が適用されない。さらに、相続による所有権移転の登録免許税には0・4%の軽減税率が適用されるが、代償分割にはこちらも適用されず、2%の税率が課されてしまう。
代償分割の財産は必ずしも現金である必要はないが、追加の税負担などを考えれば、現金で渡したほうがお得ということになりそうだ。(2020/09/18)