ハンコではなく「花押」で遺言書

自筆なのにNG


 遺言書の作成は、自分が一生をかけて築いてきた財産を誰にどう分けるか指示する、いわば人生最後の大仕事だ。法的効果を発揮するには押印が必要となるため、大仕事にふさわしい印にしたいと、自筆で「花押」を書き上げた。自信作を前に、思わず「これで完璧だ」と声が漏れてしまうかもしれない――。

 

 しかし、この遺言書は無効となる恐れがある。最高裁は2016年、遺言書が法的な有効性を持つためには、花押は〝不合格〞との判決を下した。花押とは、戦国武将や江戸時代の藩主らが行政文書などに記した手書きのサインのことだ。現在でも内閣総理大臣や閣僚は、閣議決定などの際に文書の末尾へ花押を書くことが通例となっているため、ニュースなどで見たことがあるという人もいるかもしれない。

 

 民法では、遺言書の偽造を防ぐため、誰にどれだけの財産を譲るかという本文を自筆で書いた上で、自筆による日付の記入と署名、さらに押印を求めている。これらの要件をひとつでも満たさない遺言書は、たとえ本人が書いていたとしても法的効力を発揮しない。

 

 この際の署名などは必ず自筆でなければならないが、押印に関しては必ずしも実印である必要はなく、認印や拇印でも認められる。本人が作成したことを証明するのが目的なら、認印がよくて自筆の花押が認められないのは今ひとつ釈然としない話だが、最高裁判決によれば「印は遺言者の同一性や真意を担保させるほかに、文書が完成したことを確認するためにある。それを踏まえて、押印の代わりに花押を記して文書を完成させるという一般慣行や法意識はわが国にない」という。(2018/09/25)