住居を確保し、遺産の取り分も増加

遺産分割 配偶者優遇へ

預貯金の「分割前仮払い」制度創設


 相続法制の見直しを検討している法制審議会(法相の諮問機関)の相続部会はこのほど、婚姻期間が20年以上の夫婦のどちらかが死亡した場合、生前に故人より贈与を受けた住居は遺産分割の対象にしないとする案をとりまとめた。また故人の預貯金について遺産分割前の仮払い制度の創設も盛り込んだ。法務省は8月上旬から約1カ月半の間、意見公募(パブリックコメント)を実施。公募の結果を踏まえ、年内に要綱案をとりまとめ、来年の通常国会で民法改正案を提出するという。


 遺産分割は、亡くなった被相続人が保有していた不動産や預貯金、有価証券などの遺産を相続人で分け合う制度だ。

 

 現行制度では、居住用の土地や建物は遺産分割の対象になる。亡くなった被相続人が「住居を遺産分割の対象にしない」との意思表示をしなければ、生前贈与をしていても相続人で住居を含めて分け合うことになる。残された配偶者が遺産分割によって住居の売却を迫られ、住み慣れた家から追い出される可能性が指摘されていた。

 

試案では、結婚から20年以上の夫婦間で、生前贈与するか遺言で贈与の意思を示した居住用の建物や土地は、遺産分割の対象から除外するとしている。

 

住み慣れた家から追い出される?

 例えば、夫が死亡し、妻と2人の子どもで遺産分割する資産が、評価額4000万円の住居と現金8000万円だったとする。現行では、配偶者が2分の1、子ども全体の相続分が2分の1だ。遺産分割の対象は合計で1億2000万円なので、妻が住居を取得した上で現金2000万円も相続し、子ども2人はそれぞれ3000万円ずつ相続することになる。

 

 今回の試案では、住居が遺産分割の対象から除かれるため、遺産分割の対象は住居以外の現金8000万円となり、妻が現金4000万円、子ども2人はそれぞれ現金2000万円ずつを相続することになる。配偶者は住居を離れる必要がないだけでなく、他の財産の取り分が増えることになる(図参照)。

 

 法制審議会が昨年6月に発表した中間試案では、配偶者の居住権保護として、相続による権利の変動によってこれまで住んでいた建物から退去を迫られる恐れをなくし、従来通り住み続けることができる権利の新設を提案した。

 

試案では「住居以外」を対象に

 結婚から20〜30年が過ぎた配偶者が、子どもと財産を分ける際の法定相続分を現行の「配偶者2分の1、子2分の1」から「配偶者3分の2、子3分の1」に引き上げることを柱とする中間試案となっていた。だが、意見公募で「夫婦関係が破たんしていた場合も引き上げるのは良くない」「配偶者だけが財産増加に貢献したわけではない」などの意見が相次いでいたため、再検討していた。

 

 居住財産の贈与については、20年以上連れ添った配偶者が贈与を受けると2000万円までの居住用財産が非課税となる特例があり、2015年の利用は1万3959件、1782億円に上る。民法が改正されれば、この特例を廃止するのかどうかも来年の税制改正で議論することになるだろう。

 

 また試案では、故人の預貯金について、遺産分割が終わる前でも生活費や葬儀費用の支払いのために引き出しやすくする「仮払い制度」の創設を盛り込んだ。昨年、最高裁が「被相続人の預貯金は遺産分割の対象」とする判断を示したことを受け、遺産分割の協議中でも預金を引き出しやすくするための制度が必要だと判断したようだ。

(2017/09/03更新)