貯蓄型保険

品薄感で人気再燃

「より安定した資産運用」に適した商品


 2016年6月に英国がEU離脱を決定して以降、富裕層や高齢者を中心として「より安定した資産運用」に適した保険商品へのニーズが高まっている。しかし、そのニーズとは裏腹に、日銀のマイナス金利政策の長期化によって保険会社は運用難に陥り、同年3月以降は貯蓄型保険の販売休止が相次いだ。とくに、資産形成に役立つとして中小企業経営者から人気の高かった養老保険や一時払い定額終身保険は販売を休止する商品が続出。皮肉なことに、その品薄感から貯蓄型保険への人気が再燃する結果となっている。日銀のマイナス金利政策はいつまで続くのか。そして米国の新大統領がもたらした「トランプ相場」による長期金利や株式相場の上昇トレンドは持続するものなのか。販売を再開する商品も出だした貯蓄型保険の周辺を探ってみた。


 2017年、米国に新大統領が誕生する。「トランプ相場」による長期金利や株式の上昇を受け、貯蓄型保険商品の販売再開に踏み切る保険会社も出てきた。だが、新大統領の政権運営能力が未知数な以上、世界経済の先行きは決して楽観視できないだろう。市場が渇望していた貯蓄型保険商品にしても、長期金利の先行き次第では、またしても販売休止という事態になりかねない。

 

 貯蓄型保険商品の今後を展望するうえで、まずは2016年の保険業界の動きをおさらいしてみる。

 

 日銀のマイナス金利政策によって大きなダメージを受けたのが、ほかならぬ生命保険業界だ。生保各社は、契約者が払い込んだ保険料を投資運用することで利益を確保している。また定期保険で受け取れる保険金と積立金の差額も、運用益が原資となっている。だが運用するといっても、顧客が積み立てたお金をリスクの高い株式などへ大量に投じることはできないため、生保各社の主な運用先となっていたのがローリスクローリターンの国債だった。しかし、マイナス金利の影響により、生保業界は顧客に約束した利回りを確保できない事態に追い込まれた。

 

 数ある保険のなかでとくに影響を受けたのが「貯蓄型」と呼ばれる商品だ。保険には大きく分けて「掛け捨て型」と「貯蓄型」があり、前者は一度支払った保険料が戻ってこないのに対し、後者は掛け捨て型に比べて保険料は高いものの解約時や満期時にまとまった額のお金を受け取れるようになっている。保障に加えて資産形成にも役立つというのが大きな特徴で、養老保険、終身保険、学資保険などが代表的な商品だといえる。

マイナス金利で販売停止

 日銀がマイナス金利政策の導入を決定したあとの保険業界の動きは早かった。保険料を前もって一括で払う「一時払い終身保険」は、最終的に高額の解約返戻金を受け取れることや相続対策にも使えることで資産家の人気を博してきたが、マイナス金利導入直後から第一生命の子会社である第一フロンティア生命や、富国生命などが相次いで販売を休止。「銀行に定期で預けるより高利回り」というのが売り文句だったが、マイナス金利によってそれを確保できなくなってしまったためだ。

 

 国内最大手の日本生命は2016年4月契約分から一時払い終身保険の利回りを年0・75%から年0・5%まで引き下げた。それまで返戻金が保険料を超えるまでに要する期間は約5年だったが、それが約9年に延びたことになる。さらに影響は学資保険にも及び、明治安田生命は同年10月から学資保険の販売を中止した。

 

 日銀によるマイナス金利政策の長期化によって、販売休止を余儀なくされた商品が続出した貯蓄型保険は当然、品薄の状態となった。皮肉なことに、この品薄感が人気に拍車をかける結果になったわけだ。さらに、「トランプ相場」によって長期金利と株式相場が上昇したことを好感し、販売再開に踏み切る保険会社の動きが加速しつつあることが、人気再燃の大きな要因となっている。

 

 第一フロンティア生命保険では、貯蓄性の高い円建て一時払い定額終身保険の銀行窓口販売を12月から再開している。日銀によるマイナス金利政策の導入後、貯蓄型保険の販売が再開されたのはこれが初めてのことだ。同社では2016年2月から円建て定期年金、同年3月からは円建て定額終身保険の販売を休止していた。これにより同年9月の中間決算では、円建て定額商品の保険料収入が89億円となり、前年同期の1604億円から大幅に減少した。同社が販売再開に動いたことで、これまで休止していた他社も追随する可能性が高くなったとみていいだろう。

 

トランプ相場で販売再開

 貯蓄型保険が経営者の人気を集めている理由は、資産形成手段として有効な商品であるだけでなく、さまざまな面で会社にとっても役立つからだ。支払った保険料の一部は損金計上され、払い込んだ保険料以上の金額が満期保険金あるいは解約返戻金として戻ってくる。解約すればまとまった金額の現金がすぐ手もとに用意できるため資金繰りにも役立つ。解約しないで契約者貸付を利用して運転資金に回すことも可能だ。法人契約をして満期保険金を退職金や役員の死亡弔慰金に充てることで財務の安定化にもつながる。保険への加入は、もしもの時のための保障が最大の目的であることはいうまでもないが、それに加えて自社の財務体質強化や自身の老後の資産形成、さらには子や孫の教育資金などとして、貯蓄型保険は大きく役立つわけだ。

 

 保険商品は、マイナス金利のような要因がなくても、ある時を境に特定の商品が売られなくなることがある。保険料の全額が損金になるとして人気を博した「逆ハーフタックス」保険は、2014年から15年にかけてほぼすべての保険会社で取り扱わなくなった。

 

 品薄感から人気が再燃しつつある貯蓄型保険にも同様のことがいえる。どんなに人気の高い保険商品でも突然、販売休止になることがある。中小企業経営者は「あのとき、もっとしっかりと、前向きに検討しておけばよかった」などと後悔しないよう、日銀や新大統領の政策動向に決して翻弄されることなく、必要な保障を準備するきっかけとしたい。

(2016/12/28更新)