会計検査院がダメ出し!

税金のムダ遣い1年で8倍に

預金保険機構に1兆円の「埋蔵金」


 国民の納めた税金のうち、適正に使われていない〝無駄〞が1年間で8倍に増えていることが、会計検査院の調べで分かった。検査院は官公庁の税金の無駄遣いを毎年指摘して是正を促しているものの、ずさんな使い方は一向にやむことがない。納税者にさらなる負担を強いる増税を行う前に、やるべきことは山のようにあるようだ。検査院の指摘した無駄遣いの中身を詳しく見てみる。


 会計検査院は内閣や国会から独立した機関として、憲法90条により、国の収入や支出が予算に基づいて適正になされていたかを検証して毎年報告書を内閣に提出している。今回提出した2015年度の決算報告書によると、年度中に発生した税金の無駄遣いや不適切な経理は455件で、金額にすると1兆2189億4132万円となり、年間税収の2%に達した。

 

 そのうち法律や政令、予算として付けられた目的に違反していた「不当事項」が345件で178億3541万円、検査院が無駄遣いの改善や制度の見直しを求めた「意見表示」と「改善要求」は20件で1兆1606億6189万円だった。

 

 全体の件数455件は前年度より100件以上も少ない数字だ。にもかかわらず金額では約8倍、史上2番目の額となってしまったのは、金融庁所管の預金保険機構で1兆円超の〝埋蔵金〞が発見されたからだ。

国庫に返還せずプールしたまま

 同機構は1990年代の金融危機の際に、金融機関の資本増強を目的に32の銀行の優先株式を8兆6千億円分引き受けた。その後、業績の回復した銀行が株を買い戻した際に発生した売却益1兆5千億円が、今回の〝無駄〞の正体というわけだ。

 

 この売却益は、東日本大震災で被災地の金融機関が破綻した際に、預金者への返済などで一部は利用されたものの、用途が限定されているため今後使用される見込みも薄い。検査院が今後の損失補償や金融機関救済のために使われる可能性のある資金を試算したところ、最大でも5千億円規模とはじき出された。残る1兆964億円が、今後使う見込みがないにもかかわらず国庫に返還されないままプールされているわけで、これが税金の無駄遣いと判断されたことになる。

 

 同機構には、保有者と連絡がつかなくなるなどして行き先を失った預貯金、いわゆる「休眠預金」が毎年500億円程度発生しているとも言われる。こちらはもともと納税者の預金なので税金とはまったく性質が異なるが、この休眠預金をNPOなどの支援に流用しようとの動きが与野党を超えた議員連盟などによって進んでいるという。趣旨はどうあれ、国民の資産に手を付ける前に、まず自分たちが税金を無駄にしないことを優先すべきだろう。

 

電通への過払いもムダと指摘

 検査院が報告した税金の無駄遣いのうち、金額ベースで9割を預金保険機構が占めたが、それ以外の省庁にも多くの無駄が指摘されている。省庁別に見ると、件数の最多は厚生労働省だった。同省は過去10年間にわたって毎年最も指摘件数が多く、預金保険機構を除けば、金額でも最多となった。指摘内容は毎年のように医療費や雇用保険などの社会保障費の過大給付が目立つ。単純な支出の締め付けは弱者救済の手立てを狭めることにもなるため慎重さが求められるが、社会保障費増大を理由に増税を実施する前に、今納められている税金を適正に使う意識を徹底することが必要だろう。

 

 前年度に1件当たりで最も大きな金額を指摘された防衛省では、今回もレーダー装置にかかる無駄遣いがあった。航空自衛隊は5千個近いレーダー装置の交換用部品が納入される際、メーカーが一度に製造できる数量に限りがあることから、4回に分けて部品を調達。全数量がそろってから交換作業を始めたところ、半数近い2312個に不具合が発見され、修理交換を求めたが、早期に納入された938個については「保証期間切れ」として交換に応じてもらえなかったという。契約方法が適正でなかったため無駄になった税金は約25億円にも上った。

 

 社員の長時間労働が社会的問題となっている大手広告代理店の電通をめぐる税金の不正も指摘されている。環境省が2010年に開催した生物の多様性に関するイベントで、電通は計1億6760万円で運営業務などを受託していた。式典には国外から20人を招待するとして予算を計上していたが、実際に訪日したのは5人と大幅に少なかったという。また国内委員会の幹事会も7回分の予算に対し実際に開かれたのは3回、カナダのモントリオールで行われるとしていた国連関係者との会合は実際には東京で開かれるなど、多くの点で計上した予算と異なる実態が見られた。これらの水増しによって過払いされた税金2271万円を、検査院は「不当」と断じた。

 

 検査院ではこのほか、税金の無駄遣いではないものの今後検討すべき課題として、国外にある賃貸物件にかかる減価償却費についても取り上げている。海外の建物は日本の建物とは実際の耐用年数が大幅に違う一方で、減価償却の年数に関しては日本の税法に基づいて計算される。そのため賃貸収入より過大な減価償却費を計上することで不動産所得を圧縮し、所得税額を減らすことができるとして、検査院は「国外に所在する中古の建物にかかる減価償却費のあり方について、検討を行っていくことが肝要である」と提言した。

(2017/01/05更新)