盛り込まれなかった10の税金

2019年度税制改正


 与党が決定する税制改正大綱には、「検討事項」として大綱に盛り込まれなかったテーマが末尾にまとめられている。2019年度の与党税制改正大綱では、10の項目が「検討事項」として積み残された。ここでは10の検討項目を紹介するとともに、これまでの議論の経緯や20年度改正に向けた見通しなどを見ていきたい。


①年金課税

 19年度の改正議論でも、「老後の資産形成を支援する税制」として公的年金、個人年金、金融所得などにかかる課税の抜本的な見直しが検討されていたが、時間が足りず先送りにされた。前年度に引き続いての「検討事項」送りだが、今年1月に再開された政府税制調査会の議論でも主要検討項目として挙げられていることから見て、今年中に何らかの方向性が示される可能性は高い。働き方などで差が生じている年金課税などのバランスを取るという名目だが、実質的には給与所得控除や公的年金等控除などの各種優遇制度の縮減に終わる可能性が高いと言わざるを得ない。

 

②金融所得課税

 分離課税で一律約20%となっている税率の引き上げの必要性が議論されていたが、株式市場への影響を何より危ぐする首相官邸の意向で見送られた。来年度税制改正に向けた見直しの方向性について大綱では、「投資家が多様な金融商品に投資しやすい環境を整備」「意図的な租税回避行為を防止する」としか記されず、本気度はうかがえない。なお同項目については、数年前から一言一句たがわず、毎年の「検討事項」に記載されていることからも、20年度改正で結論が出される可能性は低そうだ。

 

③小規模企業の税制

 個人事業主、同族会社、給与所得者のバランス、個人と法人成りのバランスを図るため、「所得の種類に応じた控除」、「人的控除」を総合的に検討するとしている。これまた、数年間「検討事項」に積み残されたままの、いわば〝宿題〞だが、所得税法の根幹である人的控除などの見直しにも踏み込む骨太なテーマであることから、中途半端な議論は許されない。結論を出すには相当の時間がかかることが見込まれる。

 

④寡婦控除

 またしても毎年の「検討事項」の常連だが、17年度大綱までは「検討を行う」との記述が、18年度には未婚のひとり親への適用について「19年度改正において検討し、結論を得る」に変わった。しかし与党内から、法律婚と同等に扱うことに消極的な意見が出たことから、税制での抜本的な見直しには至らず、結局、住民税非課税の要件緩和と児童扶養手当の増額にとどまった。19年度大綱では「20年度改正において結論を得る」とされ、ただ1年期限を延長しただけに終わった。

 

⑤国際化・電子化への対応

 今年から新しく挙げられた検討項目となる。「各種取引の実態、国際的な議論、諸外国における対応等を踏まえつつ、適正な課税を確保するための方策について引き続き検討を行う」として、具体的な検討内容については触れていない。もっとも、税制での対応を差し置いて、税務行政の面では諸外国との情報交換制度の整備などが着々と進みつつある。

 

⑥自動車関連税制

 19年度大綱で自動車税の恒久減税など大掛かりな見直しを盛り込んだが、今後も「課税のあり方について、中長期的な視点に立って検討を行う」という。課題として「技術革新や保有から利用への変化等」という環境変化を挙げていることから、19年度改正議論にも挙がった電気自動車への課税強化、カーシェアリング利用への税負担の導入などが議論されるとみられる。業界の求める「ユーザーの負担減」は実現しそうにない。

 

⑦原料用石油の税制

 原料用石油製品等に係る免税・還付措置の本則化について、引き続き検討するとした。ここ数年、変わらず「検討項目」として挙げられている。

 

⑧医療損税

 社会保険診療報酬に消費税がかからないことについて、「税負担の公平性を図る観点や、地域医療の確保を図る観点から、あり方について検討する」としている。治療器具や設備の仕入れには消費税がかかる一方、診療で消費税は取れないという〝医療損税〞の問題は今に始まった話ではない。しかし今年10月に控える消費増税によってさらに医療機関への負担が増すことから、見直しを求める声はますます強まっている。実現するかはともかく、20年度税制改正に向けた課題とされることは間違いなさそうだ。

 

⑨電気・ガス供給業、保険業の外形標準課税

 現行制度では収入金額に応じて課される3業種に対する外形標準課税について、小売全面自由化などの環境変化を踏まえつつ、付加価値額や資本金に応じた外形標準課税への組入を検討するとしている。

 

⑩ゴルフ場利用税

 廃止を求める超党派議連と、税収を手放したくない地方自治体との間で綱引きが続く同税については、「今後長期的に検討する」と記述するにとどめた。廃止派は、ゴルフが正式種目として採用される来年の東京五輪までの廃止を一つのゴールとして動きを活発化させているが、長期的に検討するとした大綱とは温度差があるようだ。京都府笠置町のように町税の4分の1を同税に依存する自治体もあり、「スポーツ振興」だけを理由とした廃止論では弱いと言わざるを得ないだろう。

(2019/04/01更新)