熊本地震

復興予算の流用を繰り返すな

税金のブラックボックス化を許さない


 発生から2か月。熊本地震は、その後も熊本・大分両県を中心に余震が続いており、いまだ収束の見通しは立っていない。政府は国会でのTPP関連法案の成立を断念。夏の参院選にあわせて実施が検討されていた総選挙も見送った。復旧・復興には多く の予算が投入されることになるが、東日本大震災のときのような無関係事業への流用がないよう、今度こそ国民がしっかりと目を光らせなくてならない。


 政府は被災地の復旧を迅速に進めていくため「激甚災害」への指定を4月25日の持ち回り閣議で決定した。地震発生から12日目のことだ。

 

 激甚指定は、激甚災害法に基づき、道路や農地などの復旧費用の見込み額が基準を超えたときに、閣僚や学識経験者らによる中央防災会議の意見を聴いたうえで、政令で定めるもの。指定されたことで、通常の災害復旧国庫補助事業の補助金(6〜8割程度)に1〜2割程度が上積みされ、さらに復旧にかかる自治体の費用の政府援助も可能になる。

 

 東日本大震災のときのような復興特別税が導入されるかどうかは未定だが、いずれにしてもこうしたときのために税金を集めているのだから、迅速かつ適正に扱われることを願うばかりだ。

 

 そう念を押すのも、2011年の東日本大震災のときの予算の使われ方がムチャク チャすぎたからにほかならない。今回の震災復興への〝使われ方〞を監視していくためにも、当時の状況を振り返っておく必要があるだろう。 

 

東日本大震災ではムチャクチャな使われ方

 2011年。東日本大震災を引き起こした東北地方太平洋沖地震の発生から2日後の3月13 日、民主党の菅直人政権はこれを激甚災害に指定。被災した農林漁業者への資金貸付融資枠が通常被害時の200万円から250万円に引き上げられるなどの措置がとられた。

 

 地震から4カ月後の11年7月には復興基本方針を策定し、復興に必要な予算は5年間で19兆円、その後の10年間では23兆円に上ると試算。11月には復興財源法を成立させて臨時増税を決定し、復興特別所得税として2037年までの25年間にわたり課税されることとなった。

 

 そして11年度には15兆円の予算が計上され、復興事業に着手していく。だが、このとき実際に被災地支援にまわったのは9兆円にすぎず、残りの6兆円は翌年に新設された復興特別会計に繰り入れられることになる。

 

 この理由について当時の政府は「一般会計に入って不透明になるのを避けるため」としていたが、ただでさえ「裏の予算」と呼ばれて不透明さが指摘されている特別会計である。その使われ方に不安を覚えた人も多かっ た。

 

 そして案の定、各省庁が「好き放題」に使っていたことが、翌12年の通常国会に提出された復興予算明細書で明らかになる。莫大な臨時予算を手にした各官庁が「復旧・復興」の名のもとに初めに取り掛かったのは、それぞれの庁舎のリフォームだった。

 

 「耐震」の名のもと、衆参両院は7億円を改修費に投入。財務省はじめ多くの省庁が入る合同庁舎4号館は「官庁営繕費」として予算化した37億円のうち12億円を充てて改修が企てられていた。これはさすがに国会で問題視されて一時凍結されたも のの、12年末に政権奪取した自民・公明両党により「施設整備費」と変名して、以前より高額の17億円で復活した。

 

復興予算で武器・弾薬購入

 耐震工事と称した流用は税金を正しく扱うべき税務署でも発覚。全国12署でリフォームなどに使われ、中には複数年次にわたって予算を計上し、ピカピカになった外装を訪れる納税者に見せつけた税務署もあった。

 

 このほか各省庁の使い道としては、「武器・弾薬購入費」(防衛省)、「航空機購入費」(警察庁)など、どう考えても〝復興〞に結びつきにくいもののほか、被災地以外の道路建設や開発事業、さらに職員の「基本給」「通勤手当」として支払われるなど、まさにやりたい放題の状況が露呈した。

 

 こうした自由裁量がまかり通ってしまった理由としては、予算が「特別会計」という中身の見えにくい財布に入ったことに加え、配分された予算が地方自治体や公益法人などを通じて「復興関連基金」としてプールされていたことも挙げられる。

 

 復興庁や財務省の管轄外となった基金は省庁による配分や事業中止といった指示を受けることがなくなり、さらに単年度予算の縛りからも解き放たれ、その内実は完全にブラック ボックス化した。

 

 こうして流用されてしまった予算(税金)が何兆円に上るかは、もう分からない。取り戻すことができるなら返還してもらいたいが、現実にはすでに使われたか、まだストックされているのかも不透明で、その把握は困難だ。予算を役所がブラックボックスに入れたら、もう二度とその姿を納税者が拝むことはできない。

 

 こうした結果、東北の復興はいまだ途上で、避難生活を余儀なくされている人は15 万人を超えている。

 

 また、「税の使い方」とともに、今回の災害では政治家の言動にも気になる点が多い。菅義偉官房長官は地震発生直後の記者会見で、緊急事態条項を定めることについて「極めて重く大切な課題」と、改憲をほのめかしたが、この状況で発言すべきコメントかどうかが問題視された。自民党の党是である改憲が地震を契機に実現に向かうことを示唆したものなら、災害の政治利用とも受け取れるものだ。これは、おおさか維新の会の片山虎之助共同代表が「政局の動向に影響を加えることは確かだ。大変タイミングのいい地震だ」と発言したことと、立場は逆でも趣旨としては同じことだ。

 

 今回の地震では、多くの人が犠牲になり、そして現地には避難所で苦しんでいる人がいまもたくさんいる。東日本大震災の過ちを繰り返させず、予算の早急かつ適正な活用のため、霞が関にも永田町にも国民の厳しい目が常に注がれていかなければならない。

 (2016/06/10更新)