欠かせない保険のお手入れ

コロナ禍で再注目


 新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、生命保険の役割が再認識されている。もしものことがあった際の備えとしてはもちろん、契約者貸付で資金繰りの危機を脱出できたという中小企業もあるだろう。新型コロナによってライフプランや経営計画に大きな変更を余儀なくされると、考えなければならないのが保険の「お手入れ」だ。保険は加入さえすれば終わりではなく、定期的にメンテナンスを行ってこそ、その効果を最大限に発揮する。


 新型コロナウイルスの感染拡大によって、多くの経営者が経営計画やライフプランの大きな見直しを余儀なくされている。これまで安定した業績を積み上げてきた企業が、かつてないほどの苦境に立たされ、毎月の資金繰りすら難しくなっているというケースも珍しくない。そうしたなかで、契約時には無理なく払っていけるだろうと思っていた保険料が、重い負担となっていることはないだろうか。

 

 このような状況で、出費を少しでも減らすために保険の解約に踏み切るのも一つの手ではある。だが契約によっては、想定額に比べて大幅に少ない解約返戻金しか受け取れず、払い込んできた分が無駄になってしまうことにもなりかねない。このような場合には「払済保険」への変更が助けになる。

 

 払済保険は、以後の保険料を一切払うことなく、今まで支払ってきた保険料で積み立てられた額の範囲内で、一定の保障額の保険に変更する制度だ。払済保険のメリットは、今後一切の保険料を発生させずに保障を継続することができ、解約返戻金も維持されるという点にある。デメリットとしては、当初の保障額より減額されてしまうことや、税務処理が複雑になるという点もあるが、解約してすべてがゼロになることを思えば、検討の価値はある。払済保険に変換できるか否かは契約内容にもよるので、税理士としっかり相談した上で検討したい。

 

 このように一度契約した保険の内容を、その後の自身のニーズの変化に合わせて見直すことを「保全」という。自身の人生や会社に大きな変化があれば、ライフプランも変わり、おのずと求める保障の内容にも違いが出てくる。加入済みの保険であっても内容を見直し、必要に応じて調整を行う「保全」が必要となるわけで、いわば保険の〝お手入れ〞とも言えるだろう。

 

解約する前にできることは?

 例えば決算対策として生命保険に加入した会社にありがちなのが、多くの保険料を損金としたいがために年払い保険に加入したものの、その後、運転資金に余裕がなくなり、支払いの発生する次の決算時期に慌てるというパターンだ。

 

 新型コロナの影響で手元資金が不安ななかで、年払いのまとまった保険料を支出しなければならないことになる。こうしたケースでは、支払いを月払いに変更することで、負担を平準化するという手法を検討したいところだ。

 

 もしもこれらの手法を知らなかったことで保険料が払えず、契約が失効してしまっても、失効から一定の期間内であれば同内容で契約を再度結ぶ「復活」ができる可能性があることも覚えておきたい。復活が認められる期間は保険会社などによってまちまちだが、おおむね1〜3年以内となっているようだ。ただし保障内容を元通りにするためには失効中の保険料も支払わなければならない点に注意したい。

 

 また前述の払済保険への変更など、契約している保険から別の安い保険へ変更した場合にも、一定の期間内であれば以前の契約に戻す「復旧」を行えることがある。これについても、変更していた期間中の保険料の差額の支払いや、場合によっては利子の支払いも必要となることがある。

 

契約変更で資金繰り改善

 また、契約している保障金額の範囲内で他の保険商品に乗り換えることは「変換(コンバージョン)」と呼ばれる。

 

 変換の種類はさまざまだ。例えば社長が加入している保険期間が70歳までとなっていて、すでに60代後半で持病も特にないというケースであれば、71歳以降に死亡してしまうと死亡保険金を受け取れず、遺族への死亡退職金の支払いも困難になってしまう。こうした場合には、保険期間の延長を検討することもできる。定期保険から生涯保障の終身保険に変換することで、長生きしたことによって死亡保険金を受け取れなくなるリスクを回避できるわけだ。変換時の年齢によっては保険料が加算されるなどのデメリットはあるものの、利益が多く出た決算時期に組み合わせれば、多くの保険料を損金にできるので、決算対策として使うことも考えられる。

 

 そしてコロナ禍で多くの企業が資金繰りに苦しむなか、生命保険の持つ機能の一つである契約者貸付制度の存在感が増している。同制度は、生命保険の積立金を担保としてお金を借りるもので、銀行の当座貸越制度と同じ効果を持つ。借入金を返済すれば解約するまでに何回でも活用できるので、コロナ禍に限らず、一時的な運転資金不足に陥ったときの緊急手段として、存在を必ず知っておきたい。ただし契約者貸付制度とはいえ、借金であることに変わりはないので、利用に際しては返済計画も立てるべきだろう。

 

 契約時には熟考を重ねて保険商品を選ぶものの、一度加入してしまえば決められた保険料を定期的に払うだけになりがちだ。しかし保全によって可能となるさまざまな生保の活用法を知っているのと知らないのとでは、資金繰り対策にも長期的なライフプラン形成にも大きな違いが出てくる。既存契約でどんな保全ができるのかを把握し、顧問税理士と相談した上で、現在のニーズに合うよう見直しを行っていきたい。

(2020/08/28更新)