検証◆ふるさと納税②

制度が生んだ3つの対立構造


 ふるさと納税は、納税者が思い入れのある土地を寄付という形で応援し、財源の少ない地方を潤す制度として生まれた。だが実際に始まってみると、想定していなかった返礼品人気や総務省の迷走により、いくつもの歪みを生むこととなってしまった。引き続き制度の歩んできた道をたどりながら、ふるさと納税が生み出した3つの〝対立構造〞に迫ってみる。


 2009年にスタートした「ふるさと納税」は、任意の自治体に寄付をすると住んでいる自治体に納める住民税などが控除されるという制度だ。地方で教育や公共サービスを利用して育った子どもが、成長して担税力を持つ頃には地元を出て都市部に税金を納めるのは不公平だとの指摘がかねてより根強かったことから、都市部に集中しがちな税収を地方に戻すという趣旨で制度は生まれた。

 

 だが導入時点から、制度の持つ〝歪み〞に対する懸念はあった。行政サービスを実際に受ける人が税を納める「応益負担」の原則に反していることや、寄付が集まりやすい自治体とそうでない自治体の人気差が生まれるなどの指摘だ。そして、懸念は制度開始後に顕在化することになる。

 

【対立1】都市部 VS 地方

 ふるさと納税は、寄付額が住んでいる自治体に納める住民税などから差し引かれる仕組みになっている。つまり寄付者が住んでいる自治体からすれば、単なる減収だ。寄付先は地方、住んでいる場所は都会という人が多いことから、同制度でダメージを受けるのは主に東京都や神奈川県といった大都市ということになる。

 

 制度開始当初から、東京都などは「税源を奪う不合理な制度だ」と猛反発していた。しかし都会から地方への税源移動は、そもそも制度の趣旨であるため、政府は都の意見を一顧だにしなかった。その結果、最新の18年分では、東京都からは645億円が、神奈川、千葉、埼玉も合わせた1都3県では1166億円の税源が失われた。もちろん、それだけの減収を生み出したのは、寄付をした都市部の納税者自身に他ならない。

 

 もっとも、この「都市部vs地方」の構図は、いわば制度が狙って作り出した面もある。しかし続いて顕在化した2つ目の対立構造は、制度を設計した総務省にも予想外だったかもしれない。

 

【対立2】稼げる地方 VS 特産品のない地方

 返礼品の人気が高まるにつれて、制度の利用者は右肩上がりに増えていったが、その結果生まれたのは、魅力ある特産品を持つ地方に寄付が集中するという構図だった。初期の制度人気をけん引した北海道上士幌町、長崎県平戸市、山形県天童市などは肉や魚、果物と言った独自の特産品を持ち、寄付額ランキングの上位に名を連ねた。

 

 それらに比べて訴求力のある特産品を持たない自治体に寄付が集まらないのは、仕方のない話だ。もちろん制度に対する自治体の姿勢にも差はあったが、特産品を持たない自治体にしてみれば「無い袖は振れない」という心境だったろう。

 

 14年ごろから、そうした状況を打開すべく、一部の自治体が工夫を凝らし始める。姉妹都市への航空券を用意する町や、地元の工場で生産されるノートパソコンを返礼品とする市、町内の商店街で使えるギフト券で注目を集める町など、地元の特産品にこだわらず、高級品や換金性が高い返礼品を送り出したのだ。

 

 これらの自治体は独自の特産品を持たず、そのなかで打てる手を打ったにすぎない。しかし、総務省は豪華返礼品を制度の趣旨にそぐわないとして問題視し、自粛を求める動きを取った。その結果、多くの自治体は返礼品を見直して寄付額を大きく減らすことになる。長野県伊那市は家電製品を取りやめたところ72億円あった寄付が5億円まで落ち込んだ。

 

 当時問題視されていた、返礼品を転売して利ざやを稼ぐという行為が、行儀が良くないのは確かだ。また商品券などを換金して一定以上の収入を得ながらも申告しないのは明確な脱税行為であり、取り締まるのは当然だろう。しかし、その責任を自治体側に求め、自粛を要請する判断が正解だったのか。ともあれ、そうした流れにも一部の自治体は従わず、第三の対立構造が生まれる。

 

【対立3】総務省 VS 一部自治体

 総務省は昨年夏、自粛要請に従わない自治体名を公表して是正を促した。それでも一部自治体はギフト券を送るなど豪華返礼品を継続したことから、最終的には税制改正で制度自体を見直し、従わない自治体を除外することを決めた。その代表格が、最後までアマゾンギフト券を送り続けた大阪府泉佐野市だ。

 

 総務省は、泉佐野市のように豪華返礼品を止めない自治体を「良識があるとは思えない」(石田真敏総務相)と強く論難した。また、そうした一部自治体が「制度を歪めている」(石田氏)と猛批判した。総務省からすれば、本来は素晴らしいものであるはずのふるさと納税が、一部の〝非常識〞な自治体によって被害を受けているという主張だ。

 

 しかし、これまでの経緯を見てみれば、知名度のある特産品を持たない自治体が創意工夫し、なんとか寄付を集めようとする動きは自然なものにも思える。それでも自治体の取り組みが間違っているというのなら、それは「もともと総務省がきちんと規則を決めておくべきだった」(川勝平太静岡県知事)というだけのことであり、一部自治体が〝敵〞扱いされるのはおかしな話だろう。

 

 ふるさと納税制度は、6月から生まれ変わる。そこで始まるのは、全自治体が「3割以下、地場産品のみ」という同じルールのもとで寄付を奪い合う〝新生・返礼品競争〞だ。一定の救済策が設けられるものの、結局は独自の特産品を持つ自治体が強いことに変わりはなく、「持つ自治体」と「持たざる自治体」の対立構造に再び戻るだけだ。果たして、これが総務省の掲げる、ふるさと納税の本来あるべき姿なのだろうか。

(2019/06/03更新)