接待外交から学ぶ おもてなしと税金

令和初の国賓、トランプ大統領来日


首相官邸HPより
首相官邸HPより

 アメリカのトランプ大統領が、元号が令和となってから初めての国賓として来日した。日米首脳会談での交渉の中身以上に、世界中の注目を集めたのが安倍首相の〝接待尽くし〞だった。過剰な接待がどのような成果を求めたものかは分からないが、これを中小企業に置き換えて考えてみれば、支払った交際費に見合う明確な成果がない限り、成功とは言えない。さらに過大な接待費用の計上は税務署に「税逃れ」とみなされるおそれがあるので注意が必要だ。安倍首相の今回の接待外交をヒントに、交際費の経費化についての境界線を把握しておきたい。


 ゴルフ、大相撲観戦、そして高級炉端焼き店と、今回トランプ氏の来日でどれほどの費用が掛かったのかは明らかになっていないが、一般の企業が行う接待とはけた違いの金額になることは間違いない。国民としては無駄な出費ではなかったことを祈るばかりだ。安倍首相の接待外交を基に、中小企業の接待に関する税務上のルールを整理しておきたい。

 

 取引先との接触の機会が多い役員や営業社員によく知られているのが、飲食費の「5千円基準」だ。1人当たり5千円以下の飲食なら、損金算入が制限される「交際費」ではなく、「飲食費」や「会議費」に計上し、その年に支払った全額を損金にできる。もし1人当たりの料金が基準を超えそうなら、別の飲食店に移動して2次会や3次会を開催すれば、それぞれの店での1人5千円までの支払いが損金になる。

 

ゴルフ後の飲食は5千円基準使えず

首相官邸HPより
首相官邸HPより

 ただこのルールは、観劇や旅行など別のイベントの一環とみなされる飲食は対象外となっている。今回の安倍首相のように、名門コースでのゴルフや特等席での大相撲観戦を終えた後で飲食店に向かった場合は、税務上はたとえ1人当たりの金額が5千円以下でも、全額を損金にできるルールは適用されない。

 

 そもそも安倍首相がトランプ氏と会談した炉端焼きの店はいわゆる高級店で、飲食店紹介サイト「食べログ」によると、夕食の予算は1人当たり「1万5千円〜1万9999円」となっている。ゴルフなどのイベントの一環であるか否かにかかわらず、高級店で接待すれば5千円基準の適用による損金化はできない。

 

 5千円を超える飲食費で損金にできるのは1年当たり一定額までに限られる。具体的には、接待飲食費を含む交際費の800万円以下の部分か、または接待飲食費の半額であれば経費にすることが認められている。飲食だけで年間1600万円を超えるなら、その半額である800万円以上の金額が経費となるので、飲食費の半額を損金に算入することになる。

 

 経費化が可能な交際費の範囲は幅広く、飲食費の他に、観劇や旅行の費用、冠婚葬祭費、お中元などの贈答品代が含まれる。安倍首相はトランプ氏をゴルフや大相撲観戦に誘ったが、税務上はそれらの費用も一定額までは損金にできることになる。また、飲食店やゴルフ場などに得意先を送るための交通費も経費に計上することが可能だ。送迎にはハイヤーやタクシーを使っても問題ない。

 

給与課税されないように注意

 ただ、その中に本来は役員や社員が個人の財布から支出すべきものがあるか否かということを税務署は必ずチェックするので注意しなければならない。個人が支出するはずの交際費を会社が肩代わりしているなら、税務上はその人への給与として会計処理し、社員や役員に所得税が課税されることになる。

 

 役員が負担するべき交際費を会社が肩代わりすると、臨時的に支給された役員報酬とみなされ、会社の損金にできない。もし交際費として損金算入してしまえば、法人税額を本来より過少に申告したことになり、追徴課税の対象となる。また交際費の計上に当たって飲食店に支払った消費税分を仕入れ税額控除していたのなら、役員報酬には消費税分が含まれず控除できないため、消費税も過少申告になる。さらに役員報酬の支払いの際には源泉徴収の義務が生じるので、交際費処理していると源泉徴収漏れが発生することになる。税務署に否認されないためには、プライベートの飲食を交際費に計上しないのは当然として、仕事上で必要な支出であることを証拠として残しておくようにしたい。

 

 なお、交際費の年間総額や接待1回当たりの平均額があまりにも高額だと、税務署に税務処理を否認されることがある。交際費が高額であるか否かの基準は、会社の資本金や業種によって異なる。資本金1千万円以下であれば、交際費の平均支出額は年間85万4千円なので、その金額を大きく上回る会社は疑われる可能性が高い。資本金1千万円超5千万円以下だと平均支出額が210万6千円、5千万円超1億円以下だと432万7千円と、資本金が多くなるほど接待にお金をかける傾向がある。

 

 また業種によっても平均支出額は大きく変わる。化学工業であれば平均318万9千円、金融保険業であれば254万1千円と高額だが、農林水産業は57万6千円、不動産業は75万7千円と少ない。税務署はこれらの数値を前提にして、平均と比べて高額な交際費が計上されていれば、その会社の税務処理に疑いの目を持つことになる。

 

 今回の外交を中小企業の接待に置き換えて税金面の注意点を見てきた。安倍首相ほどに多額のお金を交際費に充てることは難しいが、それでも会社の財布と相談しながら、経費で落とせる接待でおもてなししたいものだ。

(2019/07/01更新)