ゆがんだ財政構造は是正できるのか?

地方の借金 200兆円の行方

地方税収は歳入の4割程度


 地方が抱える借金の総額は2014年度時点で200兆5259億円に上ることが、総務省の発表で明らかとなった。一部の都市圏を除き、多くの地方自治体は高齢化・人口減によって税収を減らし、国からの地方交付税などで財源を穴埋めする状況が続いている。地方間の財源偏在という問題に加え、人口減少社会という避けがたい難題に対して、地方は根本的な財政構造のあり方の見直しを迫られている。


 総務省がこのほど発表した資料『地方財政の状況』によると、2014年度の地方の歳入は102兆835億円、歳出は98兆5228億円だった。どちらも前年度に比べて1%程度の増加となった。アベノミクスによる企業の増収増益や消費増税などを反映して税収を伸ばしたものの、臨時福祉給付金や子育て世帯への給付金が増加した分、歳出の伸びがやや歳入を上回っているという状況だ。

 

 地方が抱える借金の残高は、前年度より8358億円減。200兆5259億円となった。地方の借入金残高は5年前から200兆円を挟んで推移しており、特に増えてもいないが一向に減ってもいないという状況が続いている。

 

 歳入の内訳を見てみると、歳入の総額約102兆円のうち、地方税の税収は36兆7855億円で、全体の3割強に過ぎない。地方に代わって国が徴収する地方譲与税を加えても4割弱だ。残る6割は、国から配分される地方交付税や地方法人特別譲与税、交付金、国庫支出金、そして借金である地方債などが占める。

 

 もちろん、このなかには東京都など財政体力のある自治体や、地方交付税を受け取っていない黒字自治体も含まれている。そのため一概に「地方」と一括りにはできないものの、やはり大多数の自治体が交付税や地方債に頼っている現状は否定できない。なお、15年度に交付税を受け取らなかったのは、約1700自治体のうち60自治体にとどまっている。

 

 苦しい状況が続く地方の財源を増やすため、国はさまざまな手立てを試みている。昨年末に決定した16年度税制改正大綱には、企業版ふるさと納税の創設や法人事業税の一部国税化など、地方が新たな財源を獲得する見直しを複数盛り込んだ。企業版ふるさと納税は、企業が本来所在する自治体に納めるべき法人住民税を一定条件の下で別の地方自治体に納められるもので、法人事業税の国税化は、自治体の財源となる地方税収を国が吸い上げ、財源不足に悩む他の自治体に配分するものだ。

 

 これらは両方ともいわば「持つ地方」から「持たざる地方」への税収の移動であるため、当然「持つ地方」からは強い反対の声が上がっている。東京都の舛添要一都知事はこうした制度によって「東京都から多くのお金が盗み取られている」と強い口調で反発。またトヨタ関連企業などを多く持つ愛知県は、「法人事業税の国税化によって豊田市1市で税収を100億円減らす」という試算を出して国の施策に反対の声を挙げた。

 

 こうした「持つ地方」の主張に対し、「持たざる地方」にも言い分がある。地方にしてみれば、地元の教育や公共サービスを利用して育った子どもが成長して担税力を持つ頃には地元を出て都市部に税金を納めているというのは不公平と感じるのも当然だ。四国4県の知事が15年に共同で提出した提言書では、景気回復による法人税収の増加は地方にまで波及しておらず、結果として地方間の税源偏在と財政力格差はさらに拡大していると指摘した。また総務相の諮問機関である地方財政審議会は、地方財政に巨額の財源不足が生じているとして、地方交付税の一層の増額を要求している。

 

政府が目指す「地方創生」の正体

 互いの言い分はどうあれ、この先人口減が進めば、地方の空洞化がより深刻な問題になっていくことは確実だ。こうした状況のなか、安倍政権は地方創生の柱として「コンパクトシティ構想」を進めている。

 

 同構想は、将来の人口減少によって医療、福祉、商業をはじめとする生活サービスの維持や公共交通の維持ができなくなることに備え、都市機能や居住を一部の地域に集約するものだ。例えば中心市街地へ集中的に住宅建設を行い、その地区の居住者に税優遇を設けるなど、資本やサービスを限られた地区に集中投下したまちづくりを推奨する。また安倍政権が設けた地方創生支援を目的とした新交付金では、交付するにあたって具体的な成果目標を設けて先駆的・優良事例に重点的に投下する方針を掲げた。

 

 ここから読み取れるのは「生き残れる可能性が高い所に資本を集中投下する」という、稼ぐ力のある企業を優遇する安倍政権の法人税改革と同じメッセージだ。稼げる自治体の「稼ぐ力」をより高めるというわけだ。では稼げない地方はどうなるのか。それに対して安倍首相が言及することはないが、コンパクトシティ構想を進めている現状を見る限り、これまで当たり前のようにあったコミュニティーの存続は期待できないのかもしれない。自分が生まれ育った町が、十年後二十年後には無人となっている可能性は、もはや「低い」とは言えない時代が来ているのだ。

 

 2007年、北海道の夕張市が赤字体質を改められぬまま、税収の30倍となる290億円余りの借金を抱えて事実上破たんした。その後債務返還を迫られた同市は公共サービスの削減や増税などを断行し、その結果働き盛り世代の人口流出が進んだ。現在、同市の人口はピーク時の半分以下となり、そのうち5割が高齢者という状況が続いているという。

 

 全国の自治体が大なり小なり借金を抱え、その額が200兆円にまで膨れ上がっているなか、人口減少が進み税収が細っていけば、夕張市のような自治体が現れない保証はどこにもない。夕張市のケースでは政府が「国は債務を肩代わりせず、債務放棄もさせない」と判断したため、同市はなりふり構わぬ増税や公共サービスの打ち切りを行うという納税者に高負担を与える形での歳入増を図った。しかし国が債務を肩代わりしていたとしても、その原資は結局納税者の税金だ。最終的に債務を負担させられるのが納税者であることに変わりはない。

 

 第二の夕張市を生まぬために、地方は根本的な財政構造の立て直しが求められている。しかし人口減少という避けがたい未来が迫るなか、立て直しの機会を得ることすら年々難しくなりつつあるのが現状だと言えるだろう。地方に残された時間は多くはない。

(2016/05/10更新)