マンション事務所は要チェック

固定資産税が戻ってくるぞ

住居と異なる算定方法に違法判決


 マンションにかかる固定資産税について、ひとつの建物内でも用途によって異なる税率を賦課している自治体があることをご存じだろうか。このたび、そうした〝用途差別〞による算定方法を「違法」とする判決が札幌地裁により下された。所有者には過大納税額の還付が命じられ、今後はマンションに事務所を構えている事業者、もしくは事業用のマンションを持つ不動産業者に大きな影響を与えるものと見られている。所有物件につき、確認を急ぐ必要があるかもしれない。


 札幌市の不動産会社Aは、2011年に同市内のマンションの1室を事業用に購入。翌年に送付されてきた固定資産税の算定につき、事業用として独自の算定方法によって他の住居に比べて高額になっていることを不服とし、賦課決定した札幌市と、不動産取得税を課税した北海道を相手に税額決定の取り消しなどを求めて札幌地裁に提訴した。

 

 当該マンションは築30年、鉄筋鉄骨コンクリート造、地上10階建て。32の住居部分と1つの事務所からなり、A社が所有しているのは、この事務所部分だ。

 

 A社が購入するまで、この事務所はある健康保険組合が所有していた。そのため、地方税法348条により固定資産税および都市計画税は非課税とされていた。

 

 そもそも固定資産税とは、毎年1月1日現在の家屋と土地、それに償却資産の所有者に対し、当該財産の所在する市町村が課す地方税だ。たいていは4月1日以降に市町村(東京23区の場合は東京都)から納税通知書が送られてきて、有無も言わさず納めさせられる。自分の建物や土地が(役所の手で)「課税標準額」なる金額で表され、それに総務大臣が定めた標準税額1・4%が掛けられた数字が、本年度に納める固定資産税額となる。多くの場合、これに都市計画税の0・3%がくっついてくるので、都合1・7%になる。評価額となる土台が大きな数字であるため、決して侮れない金額だ。

 

 そこで課税主体である札幌市は、12年の当該建物全体の価格につき1億3567万円として固定資産課税台帳に登録。A社の事務所部分については49万円の固定資産税と11万円の都市計画税の賦課決定をした。また北海道はこの部分について144万円の不動産取得税の賦課処分を行い、A社は両税とも期限内に納付した。

 

 だが、後になって住居部分と事務所部分で異なる計算式が用いられていることを知ったA社はこれを不服とし、地方税法352条に違反しているとして、税額決定の取り消しを求めて札幌地裁に提訴。同条では、マンション区分所有については、「按分して固定資産税の納付義務を負う」との規定が定められていることから、税額決定にあたって用途によって異なる算定方法を用いるのは違法だと主張した。

 

 これに対して札幌市は、「複数の用途がある建物の性質を考慮し適正に算定した」と適法性を主張。また北海道も同様に適法性を主張した。

 

 これについて湯川浩昭裁判長は、そもそもマンションの固定資産税額は一棟全体の税額を各所有者が按分して納めるものであり、それぞれの用途ごとに計算して算定する方式は地方税法違反と判断。建物の主な用途が住居である以上、建物全体の価格を住居として定め、専有する床面積に応じて税額を算定すべきだとした。

 

 これにより、札幌市に対しては過大となった固定資産税額17万4100円、北海道には不動産取得税44万5300円を、それぞれ遅延損害金をつけて支払うよう命じた。

 

知っていれば還付、知らなければ大損

 固定資産税の評価基準や評価方法は、総務大臣が告知する固定資産評価基準がベースとなる。当該固定資産のある市町村は、この「基準」に従って、課税標準となる固定資産課税台帳に登録する価格を決定するのだが、詳細については自治体ごとに「手法」が異なることが少なくない。

 

 土地については固定資産税路線価を根拠に算定するが、面するどの道路を基準にするのかなど、各地でトラブルは多い。そして土地以上に複雑かつバラバラなのが建物の評価だ。

 

 建物は新築時に役所の担当者が訪問して「もう一度同じものを作ったらいくらかかるか」という再建築価格を算出する。この評価が建築や税金のベテランでない職員によって行われることがあり、そもそも間違っているという報告は多い。そして決められた評価額は建物を取り壊すまで税額の根拠となり、建物の劣化などを加味する経年減点補正率を乗じて毎年の税額が決定される。

 

 今回の札幌のケースは、この経年減点補正率について住居と事業用で異なる数値を適用していたことが争点となり、裁判所は違法と決定した。なお裁判資料によると、用途ごとに異なる補正率を使っている自治体は、札幌市のほかに、横浜市、相模原市、浜松市、大阪市、北九州市、熊本市、京都市などがあるという。つまり、これらの自治体では、札幌市と同様に不服を申し立てることで、これまで納めた固都税が過大であるとされる可能性は大いにあるということだ。

 

 これまでも固定資産税は、過誤徴収など無茶苦茶な課税状況が全国で問題となっている。あまりの杜撰さに、14年には総務省から各自治体に注意文が発せられるなど、お粗末な実体が明らかにされている。

 

 もしもこれまで一生懸命納めてきた税金が誤りだったら、まじめな納税者としてはこれほど悔しいことはない。知れば還付、知らねば大損、そんな状況が地方税の現場で起きているようだ。

(2016/04/30)