副業での収入にご用心

税務署のチェック厳しく


 ここ数年の国税庁の発表資料を読み解くと、副業収入に税務署が厳しい視線を向けていることが分かる。申告漏れの報告書ではアフィリエイト収入5300万円や仮想通貨の儲け5千万円を申告していなかったケースが取り上げられ、確定申告の手引書では「忘れていませんか、その所得!」と強いトーンで副収入の申告漏れに警告を発している。政府が「働き方改革」で副業の普及促進に取り組んでいる中、税務署はこれまで以上に厳しく調査してくる可能性がある。副業に掛かる税金を整理してみた。


 副業で収入を得たいと考える人は年々増加傾向にある。総務省の2017年調査によると、副業をすることを希望する人は労働者全体の6・4%で、20年前の4・9%、10年前の5・2%から徐々に増えている状況だ。

 

 そして政府が「働き方改革」で副業の普及促進をめざしており、副業を希望する人の増加を後押しする可能性がある。厚労省は事業者が就業規則を作成する際に参考にする「モデル就業規則」を昨年改訂。以前は副業禁止を原則とする記載を基本としていたが、昨年1月以降はその文言が削除され、代わりに勤務時間外に副業を可能とする内容に変更された。国が兼業容認に舵を切れば関連する法制度もそれに合わせることは想像に難くなく、企業としては副業を認めざるを得ない状況になるということもあり得る。

 

 税務署は今後、納税者に副収入があるか否かについて今以上に目を光らせてくる可能性がある。現状でもアフィリエイト広告やネットオークションによる収入に関する調査事例を大々的に発表するなど、これまで以上に副収入の申告漏れに対して警告を発している状況だ。

 

 副業の定義は法的に決められているわけではなく、会社ごとに社員の副収入の源泉が副業か否かを判断することになるが、税務上では「20万円」がひとつの境界線になる。

 

「モデル就業規則」からも削除

 給与所得者の大多数は、会社が行う年末調整で1年分の所得税額が調整されているので、譲渡所得など他の所得がない限り、基本的に確定申告をする必要はないが、副業をしていると話は別だ。

 

 具体的には、①給与所得以外の副収入が20万円超、②複数の会社から給与を受け取っていて、メインではない会社からの給与収入が20万円超、③同族会社の役員やその親族が、給与以外に貸付金の利子や店舗・工場の賃貸料、機械・器具の使用料の支払い受けている――のいずれかに該当すると、年末調整をしていても申告が必要になる。反対に副収入が20 万円までなら課税対象から外されるということになる。

 

 そのうえで税務申告の際に注意が必要なのは、副業の種類によって所得区分が変わり、税金の計算方法や控除額が変わることだ。与党税制改正大綱ではこの点を課題として取り上げ、「どのようなライフコースを歩んだ場合でも老後に備える資産形成について公平に税制の適用を受けることができる税制のあり方を考えることが必要」と、働き方の違いによって税優遇や非課税枠が異なる現行税制を是正する方向性を示している。

 

 ただ現状は、働き方の違いによって、副収入の所得区分は給与所得、雑所得、事業所得などに分かれる。他の会社に雇用されずに得る副業収入は、一般的に「雑所得」だ。例えば自宅の空き部屋を一時的に貸し出す「民泊」、自家用車をAnyca(エニカ)などのサービスに登録して貸し出す「カーシェアリング」、インターネットの「アフィリエイト」で得た広告収益などが雑所得に該当する。

 

 ただし、その商取引が事業として認められるものであれば、「事業所得」となる。事業所得は雑所得とは違い、65万円の青色申告特別控除が適用でき、また必要経費にできる幅が雑所得と比べて広い。必要経費を引いて事業所得で赤字が出たら、他の所得の黒字と損益通算して税金の還付を受けることも可能だ。税金の負担を考えると事業所得は雑所得と比べ有利となる。

 

 事業所得と雑所得の境界線は必ずしも明確ではなく、税務処理をめぐって納税者と税務署が争うことが多い。税務署は取引の「営利性」、「有償性」、「反復継続性」を見るとしているものの、その定義は必ずしもわかりやすいものとは言えない。

 

 事業性を証明するには、名刺や広告宣伝のためのチラシの制作、事業用の電話回線の開設、大型コピー機の設置などの対策が考えられる。

 

 最終的には税務署の判断次第となってしまうが、立証責任は納税者側にあるため、何らかの証拠を残しておくことが不可欠だ。なお、税務署は他の所得と損益通算できるという事業所得の性格を利用した還付狙いの申告があると見ており、連年赤字の事業所得申告は特に厳しくチェックしていると言われている。

 

働き方次第で税額に差

 次に、副業として別の会社からも収入を得ているなら、その副収入は本業同様に「給与所得」となる。給与所得に認められている「基礎控除38万円」と「給与所得控除(控除額は報酬で変動)」は、別々に報酬を受け取っていても合算したうえで適用する。このうち給与所得控除は他の所得控除よりも差し引ける額が一般的に多いため、他の働き方と比べて税負担は少なくて済むことが多い。ただし、給与収入が合計で1千万円を超えると、控除額が220万円で打ち止めとなる。すなわち本業で1千万円を超えている人は、副業の収入について控除することはできない。

 

 複数の会社に勤める人は、労災保険の給付額についても注意が必要となる。業務上の負傷で休業すると、休業1日につき給付基礎日額の8割を受け取れるが、その給付基礎日額は事故が発生した就業先の賃金だけを算定基礎とする。すなわち本業の報酬月額が30万円、副業が10万円だった場合、副業の職場で負傷すると、両方の職場を休まなければならなかったとしても、労災保険からは8万円(10万円×80%)しか受け取れないということになる。

 

 この他、マンション経営の収益は「不動産所得」、株取引で得た利益は「譲渡所得」、懸賞生活をするなら「一時所得」となるなど、副業の解釈を広げれば所得区分はいくつにも分かれることになる。

 

 副業による個人所得の額が大きいのなら、その所得を法人所得に切り替えることで節税できる可能性がある。個人と法人では同じ所得額でも税率が異なり、また控除制度にも違いがあるので、規模が大きくなるほど法人化が有利に働くためだ。

 

 個人には所得に応じて5%〜45%の所得税と、10%の住民税が課税される。これに対して法人は、所得800万円までは15%、それを超える部分は約23%の法人税と、地方税の法人住民税と法人事業税が課税され、合計約30%の税率で納税することになる。住民税を含めた所得税の税率は、課税所得が330万円超695万円で30%となり、法人の負担をわずかながら上回る。

 

 厚労省がまとめた副業促進に関するガイドラインでは、社員が副業するメリットとして、所得が増加することのほか、スキルや経験を得ることでキャリア形成につながるなどとしている。一方で企業側には、優秀な人材の獲得や流出防止につながり、また社員が社外で得た新たな知識や人脈が会社の事業拡大に直結するメリットがあるとしている。ただ企業としては、自社での業務が疎かになる懸念や他社への情報漏えいリスクなどの不安も残る。

(2019/04/02更新)