全国平均の公示地価は上昇傾向

重要さ増す相続の土地対策

1年で評価額1割増も


 土地の相続財産としての価値を算定する際の基礎となる「公示地価」が、このほど発表された。地方では下落が続くものの全国平均はここ数年上昇傾向を続け、特に都市部での伸びが著しい。地価の上昇は、そのまま将来の相続税負担の増加を意味する。相続税法の改正で課税対象の裾野が広がり、最高税率が引き上げられたいま、これまで以上に不動産対策の必要性が増しつつある。


 相続財産としての価値を算定する際、現金は額面に対して10割評価であるのに対し、土地は少なくとも2〜3割減、宅地などであれば半分以下の額で評価される。「相続税対策は土地対策」と言われるゆえんで、税負担を抑えるために生前に現金を土地に換えておくという手法は、昔も今も相続税対策の王道と言っていい。しかし最近では、その土地の評価額の基礎となる「公示地価」が全国的に上がり、ただ現金を土地に換えさえすればいいというものではなくなりつつある。

 

 公示地価は年に1度、全国に約2万5千の地点を定め、不動産鑑定士の計算に調整を加えて算出される。

 

 この公示地価を目安に算出されるのが、国税庁が毎年7月に発表する「相続税路線価」だ。これを基に、相続で受け継いだ土地は財産としての価額を計算され、相続税額が決定される。相続税路線価は、公示地価のおおよそ8割、実売価格の7割程度と言われている。路線価がそのまま相続財産としての評価額というわけではなく、同じ道路沿いにある同じ面積の土地でも、その形状や利便性によってマイナス要素があれば減額されたり、逆に角地や2つの道路に挟まれていれば加算されたりして、最終的な評価額が決定されるわけだ。

 

 このほど国土交通省が発表した全国の公示地価(今年1月1日時点)は、全国の平均地価が前年から0・4%%上昇し、2年連続の上昇となった。さらに昨年までは小幅ながら下落を続けていた住宅地も前年と比べて横ばいとなり、リーマン・ショック前の2008年以来、9年ぶりの下げ止まりとなった。これまで商業地の著しい伸びにけん引される形だった住宅地が、いよいよ上昇に転じようとしている。

 

都市部と地方圏で二極化傾向

 内訳を見てみると、「都市部」と「それ以外」での二極化傾向が進んでいる。住宅地に絞って見ても、東京・大阪・名古屋の三大都市圏が0・5%伸びたのに対し、地方圏は0・4%の下落を示した。さらに地方圏の間での格差の広がりは顕著で、「札幌市・仙台市・広島市・福岡市」の四都市が2・8%伸びたのに対して、「それ以外」では0・8%下落とくっきり明暗が分かれている。

 

 ただ下落が続くなかでも、全体で見ると、その度合いは徐々に狭まりつつある。四都市以外の地域でも、下落地点数は2年で1割減少し、下落幅も縮小した。公示地価の傾向をまとめれば、全国的に上向き基調にあり、特に利便性の高い都市部に需要が集中しているということになる。土地の価格が上がれば、その分相続税評価額も上がる。なるべく税負担を抑えたいのであれば、現金を土地に換えるというだけではなく、どこのどのような土地を買うのかが重要なポイントになることは確実だ。

 

 具体的なエリアで見ていくと、住宅地の上昇率全国上位10地点中、仙台市が実に7地点を占めた。1位は同市若林区の『白萩町14―18』で前年から12・3%上昇した。このエリアは一昨年に地下鉄が開業したばかりで、仙台駅にも便が良いことから人気が上がっているという。地価が1割上がれば、単純計算で相続税の評価額も1割上がるわけで、このペースのまま数年地価が上昇すれば相続税が10年で倍になることもあり得る。

 

 自宅として相続させることを考えるならば、納税資金対策をしなければならないだろう。それどころか更地のまま何となく放置しているという土地があったとすると、相続税評価額は宅地の数倍にも跳ね上がる。地価が上昇している今のうちに処分するか、何らかの建物を建てるなど、相続税対策が急務だ。

 

不動産投資には追い風?

 一方、不動産投資や賃貸物件としての土地活用を考えているなら、地価の上昇は追い風とも言える。賃料の増加が見込めると同時に、近年の地価上昇の主因とも言われる外国人観光客が増えていくことも予想される。売るにしろ自分で商売に使うにしろ、人気エリアの土地は今後も多くの収益をもたらしてくれる可能性が高いと言える。

 

 ただし一点、不動産投資の観点から気に留めたいのが、これまで地価の上昇をけん引してきた都心の住宅地価に陰りが見えはじめていることだ。東京都を見てみると、23区全体では昨年を上回る3・0%の伸びを見せたが、「都心3区」と呼ばれる千代田区、中央区、港区の住宅地では、上昇率が昨年に比べて縮小している。3区とも全国的に目立った伸びを示したものの、千代田区では9・4%から7・5%へ、中央区では9・7%から6・2%へ、港区では6・3%から5・2%へと、それぞれ伸び率が鈍化した。

 

 これらのエリアでは、東京五輪に向けた需要増や外国人投資家によるJ ― REIT(不動産投資信託)によって過熱気味とも言えるほどの地価高騰を続けてきたが、ここにきて限界が見え始めた格好だ。

 

 ひと口に地価の全国平均が上がったといっても、その実情は地方によってさまざまだ。それぞれの個別地点の地価は国土交通省のサイトで閲覧できるので、まずは自分に関係のある土地の公示地価の動向を調べ、相続や投資の不動産戦略を練ってみるのがよいだろう。

(2017/05/07更新)