ペーパー2枚の「経営力向上計画」

固定資産税が3年間半額

開始5カ月で1万件突破


 中小企業の設備投資に関して税優遇を受ける条件となる「経営力向上計画」の認定件数が、昨年7月の制度スタートから5カ月で1万件を突破した。増加の背景には、赤字企業でも使える優遇策であることや、比較的低負担で計画を作成できることなどの理由があるとみられ、同計画の作成は今後、中小企業の必須課題となっていきそうだ。


 中小企業庁のデータによれば、昨年7月に施行された中小企業等経営強化法に基づく経営力向上計画の認定件数は、昨年12月末時点で1万101件となり、5カ月で1万件を超えた。特に11月末時点の5644件からの1カ月で4千件以上増えており、昨年のうちに認定を受けておくことで、税優遇の恩恵を今年から受けようと考える企業が多かったものと見られる。

 

 経営力向上計画は、設備投資や人材育成、経営手法の改善などを盛り込んだ、3〜5年の中長期的な経営計画だ。計画書はペーパー2枚と、この手の申請書類の中ではかなり少なく、税理士など専門家の力を借りれば比較的簡単に作れるだろう。とはいえ最終的に国の認定を受けねば税優遇は利用できないため、中身はしっかり作り込む必要がある。国が定めた業種ごとの生産効率の基準などを満たすものでなければならない点に注意が必要だ。

 

 計画書が認定されることで受けられる優遇は、現在1種類のみで、生産性を向上させるために新たに取得した設備にかかる固定資産税を3年間半額にするというものだ。具体的には、①購入したい機械のメーカーを通じて、工業会に対して「証明書」の発行を依頼し、受け取る。②「経営力向上計画」を作成し、先に取得した「証明書」を添付して、自社の業務分野を所管する官庁に提出する。③認定を受けたら、実際にメーカーから機械装置を取得する――という流れを経る。すでに取得した設備について申請することもできるが、取得日から60日以内に計画を提出しなければならない。

 

 制度のスタート当初は、設備投資の対象が機械設備に限られていたため、恩恵を受ける業種が偏ることになり、昨年認定された1万件あまりのうち81%を製造業による申請が占めた。この点について、昨年末に決定した17年度税制改正大綱では拡充が図られ、ルームエアコンやサーバー、業務用冷蔵庫といった器具備品、エレベーターや空調設備といった建物附属設備が新たに対象に加わっている。製造業にとどまらず、サービス業や小売業で今後利用が広がることが予想される。

 

 ただし注意したいのは、対象が追加される地域と業種に条件が設けられることだ。全業種で対象の備品が拡大されるのは最低賃金が全国平均未満の地域となり、具体的に16年の最低賃金で見ると、東京、神奈川、千葉、埼玉、愛知、大阪、京都の7都府県以外は全業種が対象となる。最低賃金が全国平均以上の7都府県は、労働生産性が全国平均未満の業種でのみ、減税の対象が拡大される。

 

機械装置以外にも拡大

 さらに今年4月からは、これまで「中小企業投資促進税制」の上乗せ措置として認められていた、生産性の高い設備投資への税優遇が「中小企業経営強化税制」として改組され、経営力向上計画の作成が必須条件となる。同税制は、ある程度の生産性向上や収益力強化が見込める設備投資を対象に、取得価額の即時償却か、7%の税額控除(資本金3千万円以下なら10%)の税額控除ができるというものだ。

 

 従来と同様、生産性が旧モデルに比べて年平均1%以上改善する設備を取得するA類型と、投資収益率が年平均5%以上の投資計画に関わる設備を取得するB類型に分かれ、共に機械装置ならば1点160万円以上、工具や器具備品なら30万円以上、ボイラーなどの建物附属設備なら60万円以上、ソフトウエアなら70万円以上のものが対象となる。

 

 経営計画の作成が必要となり、以前より手続きが煩雑になった一方で、これまでは機械装置やサーバー用電子計算機といった限られた設備のみが対象だったものを、固定資産税の半額特例と同様に、器具備品や建物附属設備まで広く対象にするわけだ。

 

税優遇のほかにもさまざまな恩恵

 経営計画を作成して認定されれば、固定資産税以外にもさまざまな優遇を受けることができる。商工中金による低利融資、中小企業基盤整備機構による債務保証などの金融支援が受けられるほか、生産性向上を要件として最大1千万円を助成する「ものづくり補助金」など、経営計画があれば採択の際に加点されるというものもある。

 

 経営計画を作成することは、それ自体が企業にもたらすメリットも大きい。中企庁が毎年公表する小規模企業白書によれば、経営計画を作成し、計画に基づく事業を実施した事業者のうち、5割が新たな取引先や顧客を獲得している。見込みも含めると97%の事業者が新規取引先や顧客を獲得しているという。たった2ページの簡易な計画書であっても、「自社の事業の現状や将来と向き合う」ということ自体が会社にとってプラスになり得るといえる。

 

 具体的な計画の内容は業種によってさまざまだが、経産省の定めた業種ごとの指針に沿い、IT化を推し進めたものであることが求められるようだ。中企庁の公表した認定事例では、従来職人に任せていた金属板の表面研磨処理をロボット化し、製品を運搬する台車にビーコンを取り付けて管理システムに紐付けした製造業者や、セルフレジを導入した小売業者などが挙げられている。

 

 経営力向上計画に関しては、今年2月から各地方の経済産業局で、事業者、金融機関、税理士などを対象とした説明会を行っている。こうした機会に問い合わせてみてもいいだろう。

(2017/03/07更新)