コロナ禍の税の落とし穴

「所得」となるものに注意!


 GoToキャンペーンによる割引やふるさと納税の返礼品など、納税者にとって「おトク」とされる様々な制度には、実は税金がかかることをご存じだろうか。コロナ禍にあって政府が講じる支援策のなかには税法上の所得として課税されるものが複数あり、一つひとつは少額でも積み重なれば高税率の対象となる可能性もゼロではない。コロナ禍ならではの税の落とし穴に気を付けたい。


 税金が課される「所得」は全部で10種類あり、それぞれ収入から差し引ける控除額や適用される税率などが異なる。例えば退職所得は、リタイア後の生活を保護するという理由により、まとまった額の控除枠が用意されている。

 

 逆にこうした優遇がほとんどなく、最も〝厳しい〟課税がなされるのが一時所得だ。一時所得とは、営利を目的とする行為から得たものではなく、労務や役務への対価性を伴わない所得を指す。

 

 懸賞や福引の賞品、競馬などギャンブルの払戻金、生命保険の一時金、遺失物を拾得した際の謝礼金などが該当し、この一時所得が年間50万円を超えた場合には、超過分の2分の1に当たる額が、他の譲渡所得、雑所得、不動産所得、利子所得などと合算され、最高45%の累進税率を適用されることとなる。

 

 また他の所得に比べて、経費として差し引ける範囲が厳しく限定されているのも一時所得の特徴だ。労働の対価でも努力の成果でもなく単なるラッキーによる収入だという認識から、他の所得に比べて不遇なルールが設けられているといえる。

 

 もっとも、何の対価でもないラッキーな収入など、そうそうあるものではない。すぐ思いつくのは宝くじだが、宝くじの当選金に関しては個別規定により税金は課されないことが決まっている。また親や祖父母からの金品の贈与は、所得税ではなく贈与税の対象になるため、これも一時所得には該当しない。考えられるのは生命保険の一時金くらいだが、これも数十年に一度ほどの頻度で発生するものであり、一時所得に対する課税を意識することはあまりないだろう。

 

特殊な収入が増加

 だがコロナ禍にあっては、この一時所得をしっかり意識する必要があるかもしれない。というのも、コロナ禍において政府が各種の支援策を講じるなかで、例年にはない特殊な収入を得る機会が増えているからだ。こうした公的な支援策のなかには、一時所得として課税される収入も少なくない。税務調査を受けないで済むように、課税と非課税の境界線を把握しておきたいところだ。

 

 例えば、多くの人が利用した「GoToトラベル」では、キャンペーンによって得をした分の金額が、そのまま一時所得に当たる。同キャンペーンでは宿泊代金の35%が割引されるが、国はこれを「何らかの対価ではないラッキーな収入」とみなしているわけだ。

 

 良い宿にいつもよりはるかに安く泊まれるとあって、同キャンペーンでは高級ホテルから先に予約が埋まったという。中には日本全国の高級宿を連泊した人もいるというが、言うまでもなく高級ホテルであればそれだけ割引される料金も高額になる。それがすべて一時所得とみなされ、50万円を超えた場合には課税対象となることを覚えておきたい。言い添えるなら、宿泊代金の割引だけでなく、旅先の商店などで使える15%分の地域共通クーポンも一時所得の対象だ。

 

 「GoToイート」でも、オンライン予約時に受け取ったランチ500円、ディナー1000円分のポイント還元が一時所得となる。個々では微々たる額であり、50万円という一時所得の控除枠を考えれば実際に課税される可能性は低いだろうが、先のGoToトラベルを複数回利用していたり、また保険の一時金など他の一時所得があったりする場合には、すべてを合算して計算することとなるため、ボーダーラインを超えないとも限らない。

 

 これらに加えて、見落としがちなのが「ふるさと納税」制度で受け取れる返礼品だ。同制度の返礼品はもともと一時所得として、50万円を超えるケースでは申告が必要だとされてきた。とはいえ50万円分の返礼品をもらうためには相当に高額な寄付が必要で、それができるのは一部の超リッチ層のため、多くの人は意識する必要がなかった。

 

 しかし前述のように、一時所得となる収入はすべてを合算して計算することになっている。コロナ禍では各種GoToキャンペーンで得た利益などにふるさと納税の返礼品の価額を足して、課税ラインを超えるかどうかが判断される。経営者であれば10万円を超える返礼品を受け取っていることも珍しくないだろう。50万円の境界線をいつでも頭の片隅に入れておくべきだ。

 

 さらに、これまたコロナ禍ならではの特殊な事情として、消費税増税に伴うキャッシュレス推進事業の存在も忘れてはならない。政府は2019年10月から20年6月まではキャッシュレス決済のポイント還元を、20年9月からはマイナンバーカードと連携したキャッシュレス決済のマイナポイント付与を実施している。こうした「ポイント」への課税の仕組みはまだ国税当局内でも定まっていない部分があるものの、少なくとも現状では、6月に終了した「キャッシュレス決済へのポイント還元」について、個人は非課税である一方、9月からの「マイナポイント付与」については一時所得とされていることを押さえておきたい。

 

 またもや一時所得に加算される要素が増えたというわけだ。マイナポイントの付与は上限5000円で、単体ではたいしたことはない額だが、「ちりも積もれば山となる」のことわざのとおり、全ての一時所得を合算すれば馬鹿にならない額になり得る。一時所得に該当しそうな収入を確認しておくべきだろう。

 

課税・非課税が分かれる給付金

 国から受け取る様々なコロナ対策の給付金、補助金の課税関係についても確認しておきたい。これらはキャンペーンの還元などに比べて金額が大きいため、誤った認識はそのまま高い税負担に直結しかねない。

 

 コロナ対策の補助金や給付金の課税関係は非常に複雑で、その点を踏まえて国税庁が10月に一覧表を公開している(表)。自分が受け取った給付金・補助金には税金がかかるのかどうか確認しておきたい。

 

 個人の所得に関する主なポイントをみていくと、一律10万円を受給した特別定額給付金が非課税なのは嬉しいところだ。家を買った人は、数十万円のすまい給付金が一時所得に当たることを忘れないようにしたい。個人事業主として持続化給付金を受け取った人は、要件となっている「収入の減少」を事業所得で申請していれば事業所得、雑収入で申請していれば雑所得として所得税が課されるなど、課税関係が変わってくる点にも気を付けたい。

 

 一時所得が課税対象になるのは50万円を超えた部分であり、また実際に課税されるのは超過分の2分の1なので、コロナ禍に関する収入だけで多大な税負担が課されるということは、考えにくい。仮に未申告でも、それだけで税務調査がくる可能性は低いかもしれない。

 

 しかし一時所得は、不動産や譲渡、配当、利子など他の様々な所得と合算されて課税される「総合課税」の対象だ。様々な所得が積み重なった結果、予想していなかった税負担が生じる可能性は考えられる。また低額といえども申告漏れがあること自体が、税務調査の際に、いらぬ〝引け目〟として感じることにもなりかねない。コロナ禍という特別な事情があるうちは、いつにも増して一時所得に注意を払いたいところだ。

 

(2020/12/29更新)