ちょっと待った!

節税目的での養子縁組


 相続税の節税を目的とした養子縁組の有効性が争われていた裁判で、最高裁判所第三小法廷(木内道祥裁判長)は、「節税目的の養子縁組であっても、ただちに無効になるとは言えない」とする初めての判断を示した。相続税法では、法定相続人一人につき基礎控除額は600万円ずつ増える。そのため相続税の節税効果を狙う富裕層の間では孫と養子縁組するケースはかなりメジャーな方法であり、裁判所の判断は、こうした現状を追認したものとなった。だが、相続税対策での節税効果のメリットだけでこのスキームに飛びつくと大きなしっぺ返しをくらうこともある。今回の〝事件〞から養子縁組による節税策を考えてみたい。


最高裁「ただちに無効とは言えない」

 2013年に死亡した福島県の男性(当時82歳)は、その前年に当時1歳だった孫(長男の息子)を養子にした。だが男性の死後、遺産をめぐり男性の長女と次女がこの養子縁組の無効を求めて長男側を提訴した。

 

 経緯を裁判資料からたどっていく。男性は10年3月、福島県や東京都などに所有していた複数の不動産を妻と長男に、金融資産を二人の娘に相続させるため、自筆遺言証書を作成した。

 

 2年後の12年3月には男性の妻が死亡するが、このとき長男と共に訪れた税理士から、長男の息子を男性の養子にすることで節税メリットがあると説明を受ける。そして男性は税理士の面前で養子縁組届に署名押印したとされる。

 

 裁判資料によると、この後、男性と長男の関係が悪化する。男性は12年10月、養子縁組は長男の勝手な判断によるものであり、養子縁組の詳しい説明を受けたことも、縁組に署名捺印した事実もなく、自分の年齢から考えて養育できる時間もないとし、孫との養子離縁届を提出した。本件につき一般紙などでは、男性の死後に姉二人と遺産をめぐって争いになったと報じられているが、男性と長男は離縁届をめぐって生前から訴訟にまで発展していたようだ。この訴訟は13年6月に男性が死亡するまで続いた。そして男性の死後は、養子縁組をめぐって姉二人が無効を求める裁判が新たに始まった。

 

 争点になった主な点は、男性に養子縁組の意思があったかどうかだ。民法802条には、「当事者間に縁組をする意思がないとき」は縁組を無効にできると定められている。したがって節税目的で養子縁組をするとしても、本当に親子になる意思があったかどうかが問われた。

 

 一審の東京家庭裁判所は、男性が養子縁組の書類に自ら署名していることなどから、養子縁組は有効と判断した。だが二審の東京高裁は長男が税理士を連れて節税メリットを説いたことから、「男性に孫と親子関係を創設する意思がなかった」として養子縁組を無効とした。

 

 そして最高裁は「相続税の節税という動機と養子縁組をする意思は併存し得る」とし、節税目的であっても「ただちに民法802条のいう『当事者間に縁組をする意思がないとき』にあたることができない」と高裁決定をひっくり返して、長女らの訴えを退けた。なお、二審判決では「縁組には真の親子関係をつくる意思が必要」としていたが、この点についての言及はなかった。

 

 今回の最高裁判決で注意が必要なのは、節税目的の養子縁組が有効であることを保証しているわけではない点だ。「ただちに縁組の意思は否定されない」と言っているにすぎず、あくまで民法802条に定めている「縁組をする意思」と「節税目的」が矛盾しないことを述べているに過ぎない。もちろん、節税目的と縁組意思が「併存し得る」と述べている以上は、今後は広範囲なケースで養子縁組が認められることになるだろう。

 

「特別」と「普通」の2つの制度

 養子縁組をすることによって相続税の基礎控除額が増えるほか、生命保険金や死亡退職金の非課税枠も拡大される。だが、養子縁組は相続税法や民法の規定が複雑に絡み合い、今回の男性のケースのように「争族」に発展するケースも少なくない。安易に養子縁組を行ってしまい、後々トラブルになることもあり得る。

 

 今回の最高裁判決を機に養子縁組について理解を深めておきたい。まず、養子縁組には、「特別養子縁組」と「普通養子縁組」のふたつの方法がある。

 

 特別養子縁組は、養子になった者と実親との親子関係が法律上消滅する。戸籍上、実親との関係を断ち切り、完全に養子は養親のみとの親子関係になるものだ。したがって、養子になった者は実親の財産を相続することはできない。戸籍上も「実子」と記載され、0歳〜6歳までの年齢制限がある。

 

 一方、普通養子縁組は、縁組により養子先の親と法律上は親子関係になるが、実親との親子関係が消滅することはない。つまり実親との親子関係を存続したまま、養親とも親子関係を作ることになる。養子になった者は各々の親の子となり、それぞれの財産を相続することになる。実親よりも年少者であり、かつ尊属でなければ年齢制限はない。

 

 普通養子縁組で最もポピュラーなものは婿養子だろう。娘の配偶者を家系に入れるということで、自分の跡取りとして選んだ人物を家系に加えることができる。一般に行われているのはほとんどが普通養子縁組で、特別養子縁組は年間で400件程度に過ぎない。

 

 また民法では、養子の元々の親族と養親が親族になることはない。仮に養子にした者に子があったとしても、養子を受け入れた側としては赤の他人ということだ。ただし、その養子縁組の後で養子に子が生まれた場合は、その子は養親の相続権を代襲相続できる。民法上、代襲相続ができるのは直系血族関係にある者となっているからだ。

 

 相続税対策に有効なら養子縁組を何人も揃えたらいいと考えるだろう。民法上は、養子は何人いようとかまわない。仮に養親に100人の養子がいたとしても、全員相続人になることができる。

 

 だが、相続税法では法定相続人の養子の数に制限がある。養親に実子がいれば養子は1人まで、養親に実子がいなければ養子は2人までと決められている。ただし、特別養子縁組では制限の対象はない。

 

 このような制度が設けられた理由は、相続税の基礎控除額に影響するからに他ならない。相続税の基礎控除額の計算式は、3000万円+600万円×法定相続人数で、相続人の数が増えると、自動的に基礎控除額が増えることにつながる。また相続人が生命保険金や死亡退職金を受け取る際も、法定相続人の数に応じて1人×500万円まで非課税になるなど、法定相続人の数が重要になる。

 

 被相続人の財産は、被相続人から子、子から孫と順を追って相続する流れが通常だが、被相続人の意思でどうしても孫に財産を直接遺したいという場合には、孫を養子にすることが有効な手段だろう。

 

 ただし、相続税の計算では「2割加算」という制度があることを覚えておきたい。相続税法では、被相続人の一親等の血族および配偶者以外は、相続税額に100分の20に相当する金額を加算することが規定されている。孫養子は民法では被相続人の一親等の血族となるが、相続税法ではこれに含めないということだ。

 

 また、被相続人が子どものいる相手と結婚したときは、被相続人の相続発生後、配偶者は配偶者として財産を受け取ることができるが、その連れ子には相続権はない。そのため連れ子に財産を遺してあげたければ、養子縁組を行い、実子と同じ扱いにしなくてはならない。

 

縁組の解消は容易ではない

 養子縁組のリスクも見ておきたい。まず挙げられるのは、相続人全員の合意が必要となる遺産分割で協議が難航するおそれがあることだ。養子も実子も相続人として同じ立場になり、養子縁組で相続人が増えたことにより、他の相続人の取り分は減ることになる。最低相続権である遺留分が減少することになるのだ。本来の遺留分が減ることにより元々の相続人からの不満が出ることは考慮すべきだろう。

 

 普通養子縁組では、実親と養親の両方からの相続財産を受け取る権利がある反面、実親と養親どちらの親に対しても扶養義務が生じる。親が働けなくなり収入が無くなって介護が必要になれば、面倒を見る義務が生じる。当然といえば当然なのだが財産を受け取る権利がある代わりに、扶養義務も果たさなければならない。

 

 最後に、養子縁組の届け出が受理されると簡単に取り消すことができない点も挙げておきたい。養子縁組を行った後に、養親と養子の関係が悪くなり、養子縁組を解消したいということになっても、原則としてお互いの合意がないと解消はできない。被相続人が、娘の配偶者を養子にしたとする。娘夫婦が離婚しても養子縁組の離縁が認められない限り養子関係は続くことになる。

 

 相続税対策として養子縁組は節税メリットが大きいわけだが、家族間の複雑な事情を考慮した上で決断しないと大きなしっぺ返しをくらいかねない。

(2017/03/31更新)