いびつな租特が生む減税格差

あの大企業は800億円の負担減


 特定の政策目的を実現するための減税措置である「租税特別措置(租特)」について、財務省はこのほど2017年度の利用状況をまとめた。法人税の軽減税率や所得拡大税制を利用する中小企業が増えている一方で、限られた巨大企業グループが数百億円規模の減税を受けている特例もあり、租特が一部の稼げる大企業とそれ以外の〝減税格差〞を生んでいる側面も否定できない。最新の実績を基に、租特を巡る状況を見てみたい。


 財務省がまとめた報告書によると、2016年4月〜17年3月までの1年間に何らかの租特を利用した法人は、前年度比4%増の123万1489社だった。利用件数は192万2624件で、最も多く利用されたのは、中小法人の800万円以下の所得について法人税率を15%に軽減する特例の93万1720件だったという。

 

 前年から4・9%増、5年前に比べれば32・3%増と、利益を上げて法人減税の恩恵を受けられるようになった中小企業が着実に増えていることが分かる。

 

 また件数とともに伸び率が顕著なのが、賃上げした企業が法人税額を軽減できる「所得拡大促進税制」だ。17年度には前年度比22%増の12万977件が利用されていて、ここ数年の伸び率では頭一つ抜けている。

 

 黒字法人が増えて賃上げの余裕ができつつあることに加え、税制としても拡充が繰り返され、使い勝手が増していることも理由の一つだ。同税制については18年4月からも適用要件が緩和され、税優遇が拡大されているので、さらなる利用増が見込まれる。その他にも利用件数の多い上位10租特には、中小企業向けの特例が多く並んだ(表1)

 

寄付金の損金算入の特例、研究開発税制…

 このように租特による減税特例の数々が、多くの中小企業の経営を楽にしていることは確かだ。しかし租特には、特定の大企業を優遇するというもう一つの側面がある。

 

 表2は、利用件数の多かった10の租特について、適用額が多い上位10社が適用額全体に占める割合で並べ直したものだ。最も利用件数の多かった法人税の軽減税率と二番目の少額減価償却資産の特例は、それぞれ適用上限を800万円、300万円までとしているため、いわば〝公平〞な減税措置といえる。

 

 一方、認定NPO法人に対する寄付金の損金算入の特例や研究開発税制は、上位10法人のみで特例による減税全体の約3割を占め、一部の企業に減税の恩恵が偏っている〝不公平〞な租特だ。認定NPO法人の寄付特例ではトップ1社が17億円の減税を受け、研究開発税制ではトップ1社がなんと145億円の減税を受けている。個々の法人名は明かされていないが、企業の収益状況などから見て研究開発税制で145億円の減税措置を適用したのはトヨタ自動車だと推測される。

 

 トヨタ1社が受けた145億円の減税もさることながら、グループ全体に目を向けてみると、さらに異常さが際立つ。連結法人ベースで研究開発税制の適用額を見ると、トヨタ自動車系列で受けた減税額はトータル797億3693万円に上り、2位グループの4倍以上の恩恵を受けていることになる。

 

与党大綱に見直し方針

 租特は特定の政策を実現するためにある以上、その目的と効果を検証し、より良いものにしていくことが必要だ。しかし総務省の行政評価局によれば、19年度税制改正に向けて各省庁が行った租特に対する政策評価59件のうち、過去の政策の評価について評価書のみで分析・説明の内容が求められる水準に達していたのは、なんと0件だった。

 

 各行政機関からの補足説明を踏まえた結果、一定水準に達した、いわば〝補欠合格〞を含めても5件、全体の8%に過ぎず、そもそも分析・説明が何らなかったものも11件あったという。特定の目的のために講じられた措置であるにもかかわらず、実際にどれだけの結果を残したか説明できるのは全体の1割にも達していないわけだ。

 

 19年度の与党税制改正大綱では、過度な租特の乱立は「税負担の歪みを生じさせる面がある」として、「真に必要なものに限定していく」と明記している。だが各省庁によるまともな検証すら行われていない現状では、多くの中小企業が真に求める租特が残り、一部の大企業にのみ恩恵を与える租特が改められる保証はまったくない。

(2019/04/03更新)