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社長の個人保証を外せ!

交渉次第で銀行も譲歩


 中小企業経営者にとって大きな悩みの種だった「経営者の個人保証」を外した融資契約が近年増えている。これまでは次世代への承継や事業展開を考えた時に、経営者個人に設定された借入金の保証債務が障害となって積極的な判断をできないことが多かったが、個人保証を外すための枠組みを規定した『経営者保証に関するガイドライン』を活用することで資金繰りのハードルが一段下がることが期待されている。専門家の力を借りて経営計画を作ることで、保証を外すだけでなく低利の融資を受けられる制度もあり、中小企業にとって大きな助けとなりそうだ。


 日銀が今年2月に導入したマイナス金利政策によって、金融機関はこれまで国債購入に充てていた資金を企業への融資に振り向けている。金利自体も下がっていることから、中小企業にとって今はかつてないほど銀行から融資を受けやすい状況と言えるだろう。だからといってすべての中小企業が新規融資を受けるかと言えばそんなことはない。経営者の個人保証を求められ、リスクを背負う可能性を否定できないからだ。

 

 中小企業への融資では、ほとんどの契約で金融機関は経営者個人の保証を設定する。銀行としては融資額の回収可能性を少しでも高めることが目的だが、個人保証があると、融資を受けられたとしてもリスクを負うような積極的な経営判断ができないばかりでなく、事業承継を今後に控える会社なら債務の多さに後継者候補が難色を示す懸念もある。中小企業は新たな融資に慎重にならざるを得ないし、そのため積極的な事業展開や事業承継が妨げられているという現状がある。

 

 こうした事態を回避するため、中小企業庁が2014年2月に適用を開始した『経営者保証に関するガイドライン』では、個人保証を不要とする基準や、廃業・事業再生時に経営者に一定の資産を残す基準を定めている。法的拘束力はないが、金融機関に自主的な順守を求めているものだ。

 

 ガイドラインでは、①法人と経営者の資産関係が明確に区分・分離されていること、②返済能力に問題のない財政基盤があること、③財務状況を適時適切に開示する経営の透明性を確保すること――の3条件を満たした企業は、経営者保証を外すよう金融機関に求められるとしている。

 

 14年2月の開始以来、ガイドラインを活用した保証解除や保証を求めない新規融資は着実に増えつつある。去年10月から今年2月の半年間に政府系金融機関から個人保証無しで融資されたのは2万7613件と前年同期より5千件以上増えた。融資額は9807億円で、新規融資全体の3分の1に当たる。

 

中企庁の「ガイドライン」を活用

 これらの数字は日本政策金融公庫など政府系金融機関のみのデータではあるものの、金融庁が発表するガイドライン活用の事例集によれば、民間の金融機関でも個人保証を求めない例が増えているという。

 

 建設機械のリースや修理を行うA社では、事業承継を行うに当たって現経営者の抱える多数の債務保証に不安を覚え、ガイドラインを利用して準メーンバンクである信用金庫に保証解除を求めた。信金は検討の結果、会社と経営者の資産経理が明確に分離されていることや、会社の資産や収益力で十分な返済能力が見込めたことから、根保証約定書を更改せずに今後は経営者保証を求めないこととした。

 

 この例はガイドラインの求める要件を完全に満たしているケースだが、仮に先に挙げた3つの条件を厳格に満たしていなくても個人保証を外せることもある。建設業を営むB社は数年のうちに事業承継を考えていたため、メーンバンクに長期運転資金を申し込む際、保証債務を後継者に残したくないとして個人保証解除を申し出た。同社は会社から経営者個人への立替金勘定があった上、法人と経営者の資産の明確な区分・分離はできているとは言えなかったが、立替金勘定が近年減少していることや、今後さらに解消に向けて減少を図る旨の意向が示されていることが考慮され、個人保証を外すことができたという。

経営計画策定で低金利融資も

 個人保証を外せた例に共通しているのは、返済へ向けた確かな意思があることと、それをある程度裏付ける客観的な見通しがあることだ。参考事例の多くでは、専門家の支援を受けた上での中長期的な事業計画の策定と進捗の報告、財務状況の正確さを確保できる透明性が金融機関に評価され、保証の解除につながっている。金融機関からすれば、金を貸す以上は熱意だけでなく客観性が確保されなければならない。そのためには税理士など専門家のサポートが不可欠だろう。

 

 専門家の支援を受けて経営計画を策定することは、個人保証の解除以外にもメリットがある。16年度税制改正では、税理士などの認定支援機関のサポートを受けて経営計画を策定して認定されれば、政策金融機関で通常よりも低利率の融資が受けられるほか、民間金融機関からの融資を受けるときの信用保証、債務保証などが得られるという特例措置が導入された。また新規に取得した設備の固定資産税が3年間半額になるという税優遇もある。

 

 経営計画を策定することは、会社のビジョンを再確認して進むべき道を明確化することにも貢献する。返済能力の向上にもなり、自然と金融機関に保証解除を認めさせることにもつながっていくわけだ。

 

 経営者保証の解除は、社長自身のライフプランや自社の将来にも関わる大きな問題。会社の成長にもつながることを踏まえ、税理士など専門家の協力を得て積極的にガイドライン活用の道を探っていきたい。

(2016/10/05更新)