生保節税に新たなシバリか?

金融庁が保険商品の実態調査


 金融庁が、節税効果が高い法人定期保険の実態を把握するための調査に乗り出した。保険本来の趣旨にそぐわない「節税商品」の有無を調べる狙いがあると見られる。金融庁の調査の結果を受け、国税庁が生保による税負担軽減策を抑制するための税制改正に向けて動き出す可能性は否定できない。


 金融庁は生命保険各社に対し、保険料の設定など法人向け定期保険の商品内容を問うアンケート票を送付した。生保業界ではこの調査の狙いについて、節税を前面に押し出した商品の設計や販売方法の是正を求めるためのものと見ているようだ。

 

 実際、日本生命の清水博社長はこのアンケートについて触れ、「保険の提案の時には本来の保障の意味合いをきちんと伝えている」と語り、税制面のメリットを売り文句にして販売しているわけではないことを強調し、是正の対象ではないことを暗にアピールした。

 

 ただ、生保会社が商品の見直しを迫られている中で、今後は節税効果の高い商品が減ることは容易に想定できる。さらに、今回のアンケートが実施されたことを機に、生保節税の効果を抑えるための税制改正が行われる可能性も否定できない。というのも、過去にも国のアンケート調査の後に節税のメリットが抑えられた例があるためだ。

 

 平成24年にはがん保険の保険料のうち損金にできる額が全額から半額に減らされたが、改定前には国税庁が生命保険協会を通じ、保険各社にアンケート調査を実施した。調査票で記入が求められたのは、がん保険の商品名、各年度の新規契約件数と年度末契約件数、月ごとの販売実績、商品ごとの返戻率など。そしてこのアンケートが行われた直後に税制改正が行われている。

 

 今回も金融庁による実態調査の結果を受け、国税庁が生保を使った節税策の効果を薄める税制改正に乗り出すことは十分あり得る。

 

ターゲットは法人定期保険

 法人向け定期保険による節税のメリットは10年前にも抑えられたばかりだ。

 

 以前は契約期間に応じて保険金が増える「逓増定期保険」の保険料の支払い分を全額損金にできたが、平成20年以降は被保険者の年齢に応じて損金算入可能な額に制限が設けられ、45歳超の加入者が損金にできるのは最大で2分の1となった。契約によっては4分の1しか損金にできず、10年前と比べて節税効果は格段に下がっている。

 

 それでも国がいまだに生保節税に厳しい目を向け、税金面のメリットをさらに抑え込もうとしているのは、保険料を支払うことで手元に残るお金が増えることを現状でも不合理と見ているためだ。

 

 生保各社は法人定期保険を売り出す際に、必ずしも税金面のメリットを強調するわけではないが、商品の多くは〝節税商品〞といえるものであることが事実だ。

 

既存契約は慌てず対応

 特に節税効果が大きく、手元に多くのお金を残しやすいのが、解約返戻金が高額となる保険商品だ。解約返戻率は商品によって異なるが、返戻率のピークの時期に解約すると支払った保険料の9割近くが戻ってくるものもある。解約返戻金の返戻率が加入後の早い段階でピークになる設計の商品も多い。

 

 仮に返戻率9割の商品で1千万円の支払い分を全額損金にできる契約だと、その分の税金を納めずに済むうえ、ピーク時に解約返戻金を受け取れば単純計算で900万円を会社に残せることになる。

 

 返戻金を受け取ったことによる利益は法人税の課税対象だが、受け取る時期に合わせて退職金の支払いや大規模な設備投資などの計画を前もって練っておけば、その支払い分を損金にすることで利益を圧縮し、税負担を軽くできる。

 

 これに対して、保険に加入せず、1千万円の利益に税率30%で法人税や法人住民税などを支払っていたとすると、手元に残るのは約700万円となり、保険に加入するパターンと比べて単純計算でも200万円の差額が生じる。税金面だけを考えれば、保険料を支払うことで会社に残るお金を増やすことができるわけだ。

 

 改正が行われれば、生保各社は提案業務の再チェックをする必要があるだろう。ただ、すでに契約済みの保険に関しては、契約当初と変わらず損金にできるものと見られる。というのも、過去の改正を振り返ると、改正前に契約した保険については「経過的取扱い」として以前の扱いが適用されてきたためだ。

 

 既存契約については慌てて解約するのではなく、会社の状況に合わせて対応していくことが必要になるだろう。

(2018/09/04更新)