【距離】 (2019年10月号)


10月の夜空には夏と秋の星々が同居する。中天の西寄りには夏の大三角形、東寄りには秋の大四辺形が並び、北東には馭者座のカペラが輝く。そして「秋のひとつ星」と呼ばれる1等星フォーマルハウトが南の夜空に鎮座する▼夏の大三角形を形成する3つの星は、この時期の星空でもひときわ明るく輝く。七夕のおりひめ星として知られるベガ、ひこ星のアルタイル、そして白鳥座のデネブはすべて1等星だ。しかし、地球からの距離は大きく異なる▼地球と最も近い距離にあるのはアルタイルだが、近いといっても約16・7光年の彼方だ。宇宙の規模でいえばそれと似たような場所に浮かんでいるのがベガで、地球からの距離は約25光年。デネブに至っては1400光年もの遥か彼方に存在している。つまり、今夜見上げるデネブの光は7世紀のもの。日本では飛鳥時代、聖徳太子が登場したころに発した光がようやく地球まで届いている▼みずがめ座にある球状星団のM2は約5万2千光年の彼方。アンドロメダ座にあるM31は銀河系のすぐお隣にある銀河だが、地球からの距離は約230万光年。こうなるとデネブですらご近所感覚だ▼星の話をしていると、そのスケールの大きさに圧倒される。その一方で、海峡ひとつを挟んだだけの隣国との距離は0・001光秒すらないことをあらためて自覚したい。